シンデレラになりたくないドアマット令嬢は 、魔法使いとの幸せを思い願う
宮廷魔導士『ランベール・リナルド』。史実上約300年前に処刑された事になっているその大魔法使いが、私の正体だ。
私を危険分子と見做した王族が、足蹴にできるからという理由で私の魂をドアマットに封印。国を守り、魔法使いの教育機関を作り上げ、必死に王族のために身を粉にして働いてきたというのにこの扱いか、と……何もかもが面倒になった。今まで過酷な労働をこなしてきたのだから、これからはドアマットとして怠惰に寝転がり生きるのも悪くない。面倒なことはもう二度とやるものか。
そうやっているうちに、いつの間にかアストル伯爵家まで流れ着いていた。
その家に誕生したリエラという娘は、芯の強い娘だった。実の母が亡くなり、継母や義理の姉達から虐待を受けても、ただひたすら耐える。
人間の一人や二人処分してやるのは簡単だが、だからといってこの状況に首を突っ込んで面倒を見てやるのは至極面倒。そんな気持ちで私はアストル伯爵家の内情を完全に無視して、何年も眠って過ごした。
(もう何百年も碌に魔法を使っていない。隠居した魔法使いなど、出て行ってもしょうがないんだ)
そう思っていた。──あの日、リエラの洗濯の魔法をこの身に受け、目覚めるまでは。
魔力には相性の良し悪しがある。己の欠けにぴたりとハマるような……まるで私のために生まれてきたのではないかと錯覚してしまいそうになるほどの、心地よさ。そんな魔力を持ったリエラに惹かれるのは、どうしようもなく自然なことだった。
かつて魔法使いのための学校を作り教鞭を取っていた時のように彼女に魔法を教えてやれば、初めて魔法を使う幼子のように喜ぶ。その姿は私にもまだ出来ることがあると思わせてくれると同時に、私がまだ魔法使いであったことも思い出させてくれる。
しかし満面の笑みで私を「一番の友達」扱いしてくれたリエラ。その体に魔力を流してやっても、魔法使いとしての基礎知識の無い彼女には、私の想いなど通じ合えない。それでも暖炉に投げ入れられた私を見て、心配し涙を流して必死に助けようとしてくれた姿を見て……正直期待した。
だからこそ綺麗に飾ってやって、若い者達の出会いの場である舞踏会に行くように促した。これで「行かない」を選べば、きっとリエラは友人と言いつつも、私に好意があるはずだ。
──しかし、彼女は王城へ行くことを選んだ。
正直がっかりした。自分が促したことなのに無性に腹が立った。数年はふて寝して、呼ばれても絶対に起きるものかと思った。
……それでも。今頃他の男が、春の精のようなリエラを囲っているのかと思えば、面白くない。
「……様子見、しに行くか」
送り出したリエラの様子が気になった私は、魔法で王城へと向かった。
しかし舞踏会の広間に、送り届けたはずのリエラの姿はなかった。
「もう一度聞こうか。リエラはどこへ消えた?」
「し……知らないわ。リエラなんて」
リエラが見つからない苛立ちで気が立っている私が魔法で縛り上げているのは、会場内にいたリエラの義理の姉達だ。こいつらはリエラに危害を加える、害虫。
今までは、リエラが気にするだろうから駆除しなかっただけ。あと、面倒だったからやらなかっただけ。どうせなら今ここで駆除して行こうと思い立つ。
いつの間にか舞踏会から処刑場に変わってしまった王城の広間は、恐怖に包まれている。
……懐かしい。かつて私が居た頃の王城は、このように殺伐とした場で……舞踏会なんて平和なことをやっている場合ではなかった。
「命を落とすのと、社会的に抹殺されるの、どちらが好みだ? 私は怠惰だが親切な魔法使いだから、好きな方を選ばせてやろう」
「嫌、死にたくない!」
「助けてお母様!!」
「分かった。ではお前達の母親から始末してやろう」
私はそう言うと彼女らの視線から、リエラを足蹴にした憎き継母の姿を見つけ出す。そして掛けてあった呪いを、少しだけ後押しした。
すると、まるで爆弾のように……継母のドレスが爆散した。ボタンどころか、ドレスまで布切れとなって飛んだ。同時に継母の悲鳴が響くが、体は無傷のはずだ。私がそのように呪っておいたから。
「はは! 滑稽だな。ついでに、ぶくぶくと蓄えた脂肪を『皆に見て貰え』。娘のリエラに食わさずに、自分の身に溜め込んだのだと自慢して回るといい」
私がそう告げれば、継母は操り人形のように動き出し、下着を捲って周囲の人にその腹を見せ始める。すぐに殺してしまっては面白くない。限界まで羞恥心を煽って、自ら命を絶たせるくらいでなければ……リエラが気に病んでしまう。
私の魔法で、あたりは混沌に包まれた。
「魔法は、思い願えば何でも叶う。だからこそ魔法なのだ。──さぁお前達、あの母のようになりたいか?」
「絶対に嫌! お嫁に行けなくなるわ!!」
「──っ、知ってる! 私知っているわ、リエラの居場所」
どうやって痛ぶってやろうかと考えていれば、義姉のうちの一人がリエラの居場所を知っていると言い出した。
「命乞いか? 嘘を言うようでは、もっと酷い目に遭うぞ」
「た……多分、だけど。さっきチャーミング王子が連れて行った人がリエラだと思うの! 髪の色が一緒だったから」
……一気に興が醒めた。
(リエラは王子を落としたのか。……まぁ、あれほど美しければ納得だが)
しかし面白くない。
私はずっと……それこそリエラが洗濯の魔法を掛けてくれた時から好ましく思っていたのに。
その思いは、私の心の中に一つの行動案を提示する。だから私は魔法で拘束していた義姉二人を、ポイっと投げ捨てるようにして解放した。
「……邪魔するか」
私を危険分子と見做した王族が、足蹴にできるからという理由で私の魂をドアマットに封印。国を守り、魔法使いの教育機関を作り上げ、必死に王族のために身を粉にして働いてきたというのにこの扱いか、と……何もかもが面倒になった。今まで過酷な労働をこなしてきたのだから、これからはドアマットとして怠惰に寝転がり生きるのも悪くない。面倒なことはもう二度とやるものか。
そうやっているうちに、いつの間にかアストル伯爵家まで流れ着いていた。
その家に誕生したリエラという娘は、芯の強い娘だった。実の母が亡くなり、継母や義理の姉達から虐待を受けても、ただひたすら耐える。
人間の一人や二人処分してやるのは簡単だが、だからといってこの状況に首を突っ込んで面倒を見てやるのは至極面倒。そんな気持ちで私はアストル伯爵家の内情を完全に無視して、何年も眠って過ごした。
(もう何百年も碌に魔法を使っていない。隠居した魔法使いなど、出て行ってもしょうがないんだ)
そう思っていた。──あの日、リエラの洗濯の魔法をこの身に受け、目覚めるまでは。
魔力には相性の良し悪しがある。己の欠けにぴたりとハマるような……まるで私のために生まれてきたのではないかと錯覚してしまいそうになるほどの、心地よさ。そんな魔力を持ったリエラに惹かれるのは、どうしようもなく自然なことだった。
かつて魔法使いのための学校を作り教鞭を取っていた時のように彼女に魔法を教えてやれば、初めて魔法を使う幼子のように喜ぶ。その姿は私にもまだ出来ることがあると思わせてくれると同時に、私がまだ魔法使いであったことも思い出させてくれる。
しかし満面の笑みで私を「一番の友達」扱いしてくれたリエラ。その体に魔力を流してやっても、魔法使いとしての基礎知識の無い彼女には、私の想いなど通じ合えない。それでも暖炉に投げ入れられた私を見て、心配し涙を流して必死に助けようとしてくれた姿を見て……正直期待した。
だからこそ綺麗に飾ってやって、若い者達の出会いの場である舞踏会に行くように促した。これで「行かない」を選べば、きっとリエラは友人と言いつつも、私に好意があるはずだ。
──しかし、彼女は王城へ行くことを選んだ。
正直がっかりした。自分が促したことなのに無性に腹が立った。数年はふて寝して、呼ばれても絶対に起きるものかと思った。
……それでも。今頃他の男が、春の精のようなリエラを囲っているのかと思えば、面白くない。
「……様子見、しに行くか」
送り出したリエラの様子が気になった私は、魔法で王城へと向かった。
しかし舞踏会の広間に、送り届けたはずのリエラの姿はなかった。
「もう一度聞こうか。リエラはどこへ消えた?」
「し……知らないわ。リエラなんて」
リエラが見つからない苛立ちで気が立っている私が魔法で縛り上げているのは、会場内にいたリエラの義理の姉達だ。こいつらはリエラに危害を加える、害虫。
今までは、リエラが気にするだろうから駆除しなかっただけ。あと、面倒だったからやらなかっただけ。どうせなら今ここで駆除して行こうと思い立つ。
いつの間にか舞踏会から処刑場に変わってしまった王城の広間は、恐怖に包まれている。
……懐かしい。かつて私が居た頃の王城は、このように殺伐とした場で……舞踏会なんて平和なことをやっている場合ではなかった。
「命を落とすのと、社会的に抹殺されるの、どちらが好みだ? 私は怠惰だが親切な魔法使いだから、好きな方を選ばせてやろう」
「嫌、死にたくない!」
「助けてお母様!!」
「分かった。ではお前達の母親から始末してやろう」
私はそう言うと彼女らの視線から、リエラを足蹴にした憎き継母の姿を見つけ出す。そして掛けてあった呪いを、少しだけ後押しした。
すると、まるで爆弾のように……継母のドレスが爆散した。ボタンどころか、ドレスまで布切れとなって飛んだ。同時に継母の悲鳴が響くが、体は無傷のはずだ。私がそのように呪っておいたから。
「はは! 滑稽だな。ついでに、ぶくぶくと蓄えた脂肪を『皆に見て貰え』。娘のリエラに食わさずに、自分の身に溜め込んだのだと自慢して回るといい」
私がそう告げれば、継母は操り人形のように動き出し、下着を捲って周囲の人にその腹を見せ始める。すぐに殺してしまっては面白くない。限界まで羞恥心を煽って、自ら命を絶たせるくらいでなければ……リエラが気に病んでしまう。
私の魔法で、あたりは混沌に包まれた。
「魔法は、思い願えば何でも叶う。だからこそ魔法なのだ。──さぁお前達、あの母のようになりたいか?」
「絶対に嫌! お嫁に行けなくなるわ!!」
「──っ、知ってる! 私知っているわ、リエラの居場所」
どうやって痛ぶってやろうかと考えていれば、義姉のうちの一人がリエラの居場所を知っていると言い出した。
「命乞いか? 嘘を言うようでは、もっと酷い目に遭うぞ」
「た……多分、だけど。さっきチャーミング王子が連れて行った人がリエラだと思うの! 髪の色が一緒だったから」
……一気に興が醒めた。
(リエラは王子を落としたのか。……まぁ、あれほど美しければ納得だが)
しかし面白くない。
私はずっと……それこそリエラが洗濯の魔法を掛けてくれた時から好ましく思っていたのに。
その思いは、私の心の中に一つの行動案を提示する。だから私は魔法で拘束していた義姉二人を、ポイっと投げ捨てるようにして解放した。
「……邪魔するか」