シンデレラになりたくないドアマット令嬢は 、魔法使いとの幸せを思い願う
 そのメガネの男性は広間を出て、廊下を迷いも無くずんずんと進む。それに比例するかのように、私の血の気もどんどん引いていく。

「あの……もしかして貴方様は……チャーミング王子なのですか?」
「ええ。顔が名前負けしているでせいで、お気づきになりませんでしたか?」

 決してそんな風には……いや、第一印象で「この人は王子じゃないから大丈夫」なんて決めつけてかかったのは私だ。この展開はまずい……私のドレスの中はもう冷や汗で一杯だった。

(大丈夫……まだ大丈夫よ。最後にガラスの靴を落とさないように帰ればいいのよ)

 何なら初めから脱いで手に持って走った方が良いかもしれない。
 脳内で、ガラスの靴を脱いで全力で逃げるシミュレーションをしていると、チャーミング王子はとある部屋にノックも無しで入室した。そして天蓋付きのベッドに、私がうつ伏せになるように下ろす。義姉様に掛けられた飲み物はどうやらお酒だったようで、閉じ切った部屋に入るとドレスに染みついたお酒の匂いで気分が悪い。

「もしかして気分が悪いですか? 寒いかもしれませんが、窓を開けますね」

 チャーミング王子はそのままバルコニーの方に歩いて行って、バルコニーに通じる窓を全開にしてくれた。冬らしい澄んだ空気が部屋に入ってくるが、それでも匂いの原因が自分のドレスなので……完全に匂いは無くならない。

(せっかくランベールが用意してくれたドレスだったのに)

 魔法で作ったものだからランベールに頼めば何度でも作り出してくれるのかもしれないが、それでも大切な人が用意してくれた物を汚されると悲しい。汚れの範囲を確認しようと少し体を起こそうとするが、窓を開け終わったチャーミング王子が私に覆い被さるようにして妨害してくる。

「あの……?」
「ドレス、脱いでしまいましょうか。せっかく綺麗だったのに、こんなに早くに脱がせる事になるとは残念だ」

 その言葉を聞いた瞬間、脳内に警報音が鳴り響いた。それと同時にドレスの背中に通されているリボンの結びが解かれて、足からはガラスの靴が脱がされる。
 
 ──聞いてない。シンデレラにこんな急展開があるなんて、聞いてない!

 私は確かに物語のシンデレラとは別展開になることを望んでいたが。……こんな方向性に別展開はお断りだ!
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