シンデレラになりたくないドアマット令嬢は 、魔法使いとの幸せを思い願う
 それからというもの、玄関にひいてあるドアマットの近くを通ると、ツクモガミに話しかけられるようになった。その内容は単純に天気だったり、時事的な話だったり、私の事だったり。ドアマットが喋るなんて普通に考えれば怪奇現象だが、私が勝手に付喪神という設定にしてしまったので、深く考えなければそこまで怖くはなかった。

「あんたって子は、掃除も満足に出来ないのかい!?」

 ──パァンッ、と玄関ホールに頬を打たれる音が響いた。
 
 窓枠に少し汚れが残っていたのが気に障ったらしく、継母から頬を打たれたのだ。継母の後ろでは義理の姉達がこちらを見下しながらクスクスと笑っている。

「リエラ、あんたなんてこの家から追い出してもいいんだからね。私の好意でこの家に置いてやっているんだ。仕事の出来ない奴は出て行きな!」

 継母は私にそう怒鳴りつけると、最後にドンッと私の体にぶつかるようにして立ち去っていく。

「じゃぁね〜リエラ」
「本当に愚図な子ね」

 義理の姉達も私に罵声を浴びせながら、継母に引き続いてその場から立ち去っていった。

 私はフウッと息を吐きながら胸下まである燻んだブロンドの髪を結び直して、玄関ホールの床磨きの仕事に戻る。打たれた頬がジンジンと痛むが、これくらいの暴言・暴力は日常茶飯事。
 毎日の暮らしも、髪色やこの青い瞳も、まさにシンデレラのようだと思うが……私はシンデレラではない。
 
(だってあの話にはドアマットの付喪神なんて出てこないもの)

 それにシンデレラのお話で魔法を使うのは、魔法使いのお婆さんだ。シンデレラ自身が魔法を使えるわけではない。

 私はこの状況に大きな不満があるわけでは無かったし、シンデレラに憧れているわけでも無かったので構わない。むしろ私にとっては自分がシンデレラである方が困る。王子の婚約者という目立つ立場になってしまえば、再び皆から注目されてしまう生活に逆戻り。それだけは避けたかった。私はこうやって地味に静かに生きる方が性に合っている。
 
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