シンデレラになりたくないドアマット令嬢は 、魔法使いとの幸せを思い願う
 そのまま屋敷の裏手にある洗濯場に連れて行かれた私は、すっかり硬直してしまっていた。何故ならば、壮絶な美形のランベールが私の体を後ろから包み込むようにして抱きしめているからである。
 ちなみにそれは、彼がイケメンだからドキドキして……なんて乙女心擽られる理由ではない。
 私は前世で芸能活動をしていた。だから周囲は美形揃いで、私の作り笑いの仮面を見て近寄ってきた男性は、決まって見目美しかった。
 ──つまり。私はランベールのような鼻筋通った美形に苦手意識を持っているのだ。
 
(大丈夫、この人はドアマット……こんな見た目をしているけど、私のお友達のドアマットのツクモガミさんよ!)

 そう自分に言い聞かせるようにしているが、何故魔法を教える為にこのような体勢になる必要があるのか理解出来ない。意識を逸らすためにも、私は深く深呼吸した。

「そう。魔法を使う時は落ち着くのが基本だ。魔力の循環が乱れる」

 頭上から褒められるが、そもそも抱き付かないで欲しい。しかしそれを言えば「触れる必要があるのだから仕方がないだろう。気にするな」とスッパリ言い切られてしまう。

「では頭の中で実現したい事をイメージして、願え。今回は私が魔力操作を手伝ってやるから、どんな大願でも良いぞ」
「願い?」

 そんな事を急に問われたって、すぐに願いなんて出てこない。ここで「この腕の中から今すぐ解放して欲しい」なんて言うのは……ちょっと違う気もするので、私は悩んでしまった。

「金持ちになりたいでも、意地悪な継母に仕返ししたいでも、何でも願うがいい。魔法は思い願えば何でも叶う、だからこそ『魔法』なのだ」

 ……本当に何でも叶うと言うのなら。私の願いは──

『誰にも注目されたくない』
 
 お洗濯物に綺麗になぁれと祈る時のように、胸の前で手を組んで目を瞑って祈る。体の中心部分が少し暖かくなるような、そんな心地がした……が、何も起こらない。

「リエラ、やっぱりお前は凄いな。自分の体を見てみろ」
「……?」

 何を言われているのか分からずに、自分の体を見下ろすと。

「す、透けてる!?」

 自分の体を通して地面が見えている! 信じられなくて組んでいた手を上にあげ月に翳せば、柔らかな月明かりがその半透明の手を貫通した。

「嘘……」
「嘘じゃないさ。多少私が手伝ったが、これはお前が使った『姿を消す』魔法だ。ここまで完璧だと、魔法使い以外からじゃ見えないだろうな」

 ランベールが私の体を解放してくれるので、その場でくるりと回ってみる。私と一緒に服や靴なども半透明になっているようだ。感動から思わずダンスを踊るかのようにクルクルと連続して回ってターンする。お母様が生きていた頃に少しだけ練習したダンスを思い出して、思わず顔が綻んだ。
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