シンデレラになりたくないドアマット令嬢は 、魔法使いとの幸せを思い願う
 それから私は毎晩のように自室を抜け出して、ランベールと魔法の練習をした。おかげで私は様々な魔法を習得した。
 まず目立たぬように透明になれる魔法。あとは、パンを生み出す魔法に、傷が直ぐに塞がる魔法。ランベールから「練習するのがそんな魔法で良いのか? もっと格好いい竜を召喚するやつとか、相手を呪い殺すやつとか……いいや、リエラからすれば生活に直結している魔法が良いのか」と苦笑いされながら……一緒に練習する時間は楽しかった。
 
 ランベールと一緒にいる時の私は「キラキラした笑顔を貼り付けた芸能人」でも「下働きのように働く伯爵令嬢」でもない、ただの「リエラ」。ランベールだけは、ただのリエラを受け入れて、一緒に笑ってくれる。だからこそ私は、ランベールがイケメンで魔王のごとき色香を放っていても、ただの「ランベール」として接することができるようになっていった。誰かと一緒にいるのがこんなに楽しいと感じたことは今までに無かった。

 
「ランベール。貴方ってどうしてドアマットなの?」

 夜の洗濯場。パンを出す魔法を使ってもそもそと食事をする私は、隣り合って座り私の様子を眺めていたランベールに問いかけた。

「リエラ。それは『どうしてリエラは、灰かぶりのリエラなの?』と問うのと同じだぞ」

 まるでシンデレラのような文字列に、少し心が騒つく。
 それでも私が「灰かぶり」と呼ばれるのは、義姉様達が嫌がらせで灰を撒いたり掛けたりしてくるから。シンデレラのお話のように灰の中に撒かれた豆を拾ったりはしていない。

「それは、義姉様達が……」
「知っている。私も似たようなものだと言いたかっただけだ。これ以上話すのは、非常に長くなるから面倒くさい」

 私にとってランベールは一番大切なお友達。だからこそ事情を知りたいと思ったのだが……どこかランベールは最後の一線は越えさせないような線引きをしているようにも思える。「面倒くさい」という便利な言葉を使って。

「……それとも。リエラにとって私が何者かというのは、それほどまでに重要なことか?」
「いいえ。ランベールが何者であっても、私にとって一番大切なお友達に変わりないわ」
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