顔出しNG!歌うたいな彼のぬくもりは甘くとろける
「有名なんだ……」

 当てずっぽうで私が言うと、古賀さんはおかしそうに笑う。
 肯定しないけど否定もしないから、当たりなのかもしれない。

「私に言って良かったんですか?音楽やってること……」
「バイトで夏南(かな)ちゃんに会うと、なぜか俺の曲づくりがはかどるというジンクスがあって。それを伝えたかったていうか」
「私に恋でもしちゃいましたか?」
「……してもいい?」

 おどけると倍返しのように古賀さんから甘い声で問われ、冗談だろうに本気にも聞こえてしまうからドキドキするのを通り越して私の心臓は止まりそうになる。
 
 教訓。年上をからかうものではない。
 
 まるで心臓が止まったかのように硬直する私のそばで手早く身支度を済ませた彼は、「お疲れ様」と何事もなかったかのように挨拶して私に背を向けた。
 けれどすぐに忘れ物でも思い出したみたいに振り返って、ふたたび私の元へ歩み寄り頭をポンポンと撫でる。
 すると魔法のように硬直がとけて背の高い古賀さんを見上げれば、ちょっとだけ彼は困ったように微笑んだ。

「恋してもいいのか迷ってる」

 独り言みたいにそう呟いて、背を向けて帰って行った古賀さんとはその日からシフトが合わなくなった。
 一緒に仕事をすることもなければ、交代ですれ違うこともない。
 意味深な呟きが頭の中でぐるぐるまわって、忙しいだけか、はたまた避けられているのかもしれないなどと思いながらそれとなく「最近、古賀さん元気ですか?」と店長に訊ねた。
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