2年前、離婚したはずの夫から、花束と手紙が届きました
 ピアへ

 ぼくたちが別れたのは、お互いを知るために必要な時間だったんだね。

 今ならきみの全てを受け入れられる。
 きみの過ちもゆるせる。
 意地を張らずに、戻っておいで。

 ロジェリオ・ローリングより


 2年前、離婚したはずの元夫から、花束と手紙が届いた。
 私、ピア・ゲッツは今、修道院で暮らしている。
 元夫は私の居場所を知らないはずだ。
 それなのに、なぜ。

「なに、これ……」

 花束の中に入っていた手紙を見て、ゾゾゾッと、背筋が凍った。
 文面もおかしいが、花の種類もおかしい。
 黄色いガーベラは、元夫の恋人が好きだった花だ。
 何もかもが、気持ち悪い。

「ピアさん、どうしたの?」

 花を届けてくれた配達員の少年、リチャードの声で我に返る。
 リチャードは大きな灰色の瞳を不安そうに揺らしていた。

「……ううん。大丈夫。リチャード、配達、ご苦労さま」
「いいよ。仕事だし。それよりも、おじいちゃんがピアさんのスープを飲んでから調子がいいんだ」
「まあ、そうなの?」
「また修道院に来るって言っている」
「スープの配給時間に来るのかしら? 今日のスープは、かぼちゃの甘みがたっぷり味わえるものよ」
「わぁぁぁ」

 リチャードがごくりと唾を飲み干す。可愛い。

「リチャードも来てね。待っているわ」
「うん! いくよ! またね!」

 リチャードが手を振りながら笑顔で駆け出す。私も手を振りながら見送ったけど、花束を見て、胃が痛くなった。

 忘れていた元夫――ロジェリオとの結婚生活を思い出してしまった。
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