2年前、離婚したはずの夫から、花束と手紙が届きました
 2年前、離婚したはずの元夫から、花束と手紙が届いた。
 私、ピア・ゲッツは今、修道院で暮らしている。
 元夫は私の居場所を知らないはずだ。
 それなのに、なぜ。

「なに、これ……」

 花束の中に入っていた手紙を見て、ゾゾゾッと、背筋が凍った。
 文面もおかしいが、花の種類もおかしい。
 黄色いガーベラは、元夫の恋人が好きだった花だ。
 何もかもが、気持ち悪い。

「ピアさん、どうしたの?」

 花を届けてくれた配達員の少年、リチャードの声で我に返る。
 リチャードは大きな灰色の瞳を不安そうに揺らしていた。

「……ううん。大丈夫。リチャード、配達、ご苦労さま」
「いいよ。仕事だし。それよりも、おじいちゃんがピアさんのスープを飲んでから調子がいいんだ」
「まあ、そうなの?」
「また修道院に来るって言っている」
「スープの配給時間に来るのかしら? 今日のスープは、かぼちゃの甘みがたっぷり味わえるものよ」
「わぁぁぁ」

 リチャードがごくりと唾を飲み干す。可愛い。

「リチャードも来てね。待っているわ」
「うん! いくよ! またね!」

 リチャードが手を振りながら笑顔で駆け出す。私も手を振りながら見送ったけど、花束を見て、胃が痛くなった。

 忘れていた元夫――ロジェリオとの結婚生活を思い出してしまった。


 ロジェリオと結婚したのは、彼が二十歳。私が二十二歳の時だ。地方貴族で、たった一人の男子だった彼は、それはそれは大切に育てられて、望むものは全て手に入ると勘違いした人だった。

 絹のような滑らかな長い金髪。吸い込まれそうな碧眼。ロジェリオは顔立ちがよかったけれど、好みの女性を見つけるとすぐに口説くし、女遊びの激しい人だ。

 地方貴族の端くれだった私は、5人の弟の長女として育った。

 父も母も亡くなり、ひとつ年下で結婚して子どもが3人いる弟が、小さな土地を切り盛りしている。そんな弟が、援助金目当てにロジェリオとの縁談に飛びついた。ロジェリオの家も、男子が多く生まれる家系ということで、私との縁談に飛びついた。

 いわゆる政略結婚というものだけど、ロジェリオは、最初から私の容姿を嫌っていた。

 私は吊り目で、冷たい印象の顔立ちだ。髪の毛もストレートではなく、ぱっとしない赤錆色のくせっけ。
「ぶさいくを抱かなくてはいけないなんて嫌だ」
 と、ロジェリオには面と向かって言われたし、
 ロジェリオの母親も
「子どもを作るのが優先。顔は我慢なさい」と言うばかり。
 イラッとしたけど、弟が持ってきてくれた縁談だ。
 すべての言葉は呑み込んだ。

 結婚して初夜を迎えたけど、はい、出しました、ぐらいの義務感の強い行為だった。
 強く体を揺さぶられたから、ふしぶしが痛くて、悲しかった。
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