2年前、離婚したはずの夫から、花束と手紙が届きました
 結婚してすぐ、ロジェリオは家に寄り付かなくなった。帰ってきても、顔をしかめて見られ、会話することはほとんどない。ベッドを共にすることもない。

 それなのに隣の屋敷に住んでいた義母は三日に一度は家にやってきた。
 子どもが生まれやすくなるお守りや、食べ物を私に渡してきた。

「あなたの家系は子供ができやすいのでしょう? 頑張って、良い子を産んでね」

 純粋な目で言われてしまっては、「問題はお宅の息子さんです」と、言えるはずもなく。
 私はハーブティを義母に出しながら、笑みを顔に貼り付けていた。

 それに未亡人で莫大な遺産を受け継いだ義母は毎週末、友人を呼んでガーデンパーティーをする。その時に用意する料理は、私の担当。
 手作りのお菓子を食べてもらったら、義母が気に入り、パーティーの料理担当になってしまった。

 ふりかえると、ロジェリオのやる気がないのに、子どもが産まれるはずもない。それでも、当時の私は自分が不出来なせいだと思いこんでいた。

 ロジェリオに義母のことを話しても、顔をしかめられるだけ。そして、結婚して半年後。ロジェリオは恋人を連れてきて、屋敷の中に住まわせた。

「路地裏で暮らしていたら、ロジェリオ様に拾われたんです。マレーネです♪ 仲良くしてください♡ あ、この花束、ロジェリオ様からもらったんですよ。わたしの好きな花なんですっ」

 マレーネは人形のようにきれいな顔立ちの人だった。
 ロジェリオよりも一歳年下。ふっくらした艶のある頬に薔薇のような厚ぼったい唇。タレ目を細くして甘えるしぐさをする。路地裏で暮らしていたというわりには、胸はしっかり大きい。
 ストレスで激ヤセしてしまった私とは大違いだ。
 呆然としていると、ロジェリオが私の体を上から下までじっくり見た。彼はやれやれと両肩をすくめる。

「ピア……きみの今の姿が残念でならないよ。痩せてしまったら、子どもなんかできるわけないだろう? きみはマレーネほど美人ではないのに、これ以上、美しさを損なってどうするんだい」
「……ロジェリオ様あ、そんな本当のことを言ったら、ピア様がおかわいそうです」
「マレーネ、……君は優しい人だね……」
「えへへ♡」

 ロジェリオはマレーネの腰に手を回し、額にキスをしていた。マレーネの手の中には、黄色いガーベラの花束が咲き誇っている。まるで結婚式でも挙げてきたみたいだ。幸せそうにほほ笑むふたりを見て、すべてがどうでもよくなった。

 やってらんない。
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