2年前、離婚したはずの夫から、花束と手紙が届きました
 小屋の周りは私が趣味で育てたハーブの庭と、小さな家庭菜園がある。
 ハーブの知識は家庭教師に教えてもらった。体が元気ではないと心も元気にならない、というのが彼女の教えだ。

 香り豊かなハーブの庭は私の癒し。好きなように手入れして、のんびり離婚できる日まで待てば良い。
 来ない夫を待って、冷たいベッドで体を丸めるよりは遥かによいだろう。うんうん。

 私はすぐに荷物をまとめた。着慣れた衣装と、ついでにワインとグラスとパンと釜と食器を持って、さっさと離れの掃除をはじめた。

 木造作りの離れは、倉庫だった。もともとは使用人の部屋として使われていた場所だ。大釜がおける暖炉はあるし、藁を敷き詰めるベッドもある。

「住む場所としては充分よね」

 井戸で汲んだ水を運んで、掃除を始めた。時間はかかったけど、床までピカピカだ。藁のベッドにはリネンのシーツをしいて、寝心地良くしてっと。

「うん。いい感じ」

 ひとりになると、全てから解放された気分になる。

「ふふっ。誰もこないし、ワインをゆっくり飲もうかしら」

 持ってきたワインをあけて、グラスに注ぐ。赤いワインの色と香りに酔いしれ、口をつけた。

「くぅぅぅ! さいっこー!」

 その晩は、上機嫌でワインを飲み干し、ぐっすり眠った。
 こうして始まった私の離縁カウントダウン生活だったが、2日後に義母が突撃してきて、平穏が崩れた。

「ピアさん! ロジェリオと離婚するって本当なのっ?!」
「ロジェリオ様に好きな相手ができましたので」

 それが、なにか?
 と言いたげに首をひねると義母は蒼白し、震え上がった。
 私は義母が好きなハーブティーを淹れて差し出す。
 これを飲むと、義母は落ち着く。

「か、考え直して頂戴……ロジェリオも悪かったと思うけれど……」
「マレーネ様が妻になればいいですよね。愛し合っているんですし」
「でもね。でもね。あのマレーネって子、礼儀がなっていないし、あなたみたいに気遣いもしてくれないし、料理もできないし」

 ハーブティーを飲みながら、義母が愚痴を吐く。
 私はあっけらかんと笑った。

「愛があれば大丈夫ですわ」
「えっ」
「私を嫌ってマレーネ様を選んだのはロジェリオ様です。半年後には離縁します」
「嫌ってって……そこまでは……」
「嫌ってますわ。閨を共にしておりませんし」
「エッ……!」
「半年後には出ていきますので、それまでのあいだ、ご迷惑はおかけしません。お母さまもマレーネ様とお幸せに。ロジェリオ様が選んだ方ですもの。間違いありませんわ」

 にっこり笑うと義母は絶句した。
 ヨロヨロと帰っていく姿にスッキリして、私は本邸に行かなかった。

 本邸でガッシャーンだの、バッシャーンだの。窓ガラスが割れて義母がロジェリオに怒鳴る声が聞こえたけれど、ほうっておいた。盛大な親子喧嘩だろう。うんうん。

 その後も何度か義母の突撃があったけれど「愛があるから大丈夫です!」と言い続けた。
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