虎治と千鶴 ―― 硬派なヤクザと初心なお嬢
4 デートしよ!!
それからも俺はいつも通り、お嬢のドライバーやらそんな事を変わらずしつつ迎えたクリスマスイブ……より一日前の23日。
「虎治、今からデートしよ!!」
今日は早く仕事を上がってきたお嬢を迎えに出ていたんだがお嬢の服装やメイクがやけに気合い入ってた。それくらい、俺にも分かる感じだ。
まだ夕方の五時、繁華街が混み出す前ではあるが時期が時期。
「混んでるかもだけどデパートのお総菜屋さん行こ?」
「ええ、それは構いませんが」
デパートなら駐車場も完備されている。それならお嬢が行きたいと言う所に寄ってからアパートに送り届けりゃ良い……と思ったんだが。
「虎治はお夕飯なに食べる?やっぱり普段は和食が多い?」
「俺……ですか。って俺は送り届けたら帰るつもりで」
「あ、西京焼きとかも良いよね。自分じゃ焼けないからさ……味醂干しもふっくらしてて美味しそう。はんぶんこしよっか」
まるで、俺の方がお嬢にエスコートされている。
デパートの地下食品フロアの人混みの中で俺は戸惑い、お嬢は堅気さんに紛れてショーケースを覗き込んでいた。
「お嬢……じゃねえ、いや、それもそうじゃなくて。あの、千鶴さん」
外では名前で呼ばせて貰っていた。
口調も変えて……回りそうになる舌を抑え込む。
「良いんですか」
「うん?」
「俺と夕飯なんて」
「だって虎治、家族みたいなものだし」
煮物も買お、と言うお嬢はショーケースごしに焼き魚や荷物を注文して詰めて貰っていた。
支払いは俺が、と言えば「出どころは似たようなものだから」と言われてしまう。まあ、確かに。さすがに紙袋だけは俺に持たせてください、と受け取ってさらに他の店をまわり始めるお嬢の半歩後ろをついて歩く。
「もうついでにソーセージの詰め合わせとかも買っちゃおうか。虎治は辛いの平気だったからこのホットチリソースも一緒に、ね?」
なんだか俺が食卓にいる前提でお嬢は買い物をされているが楽しそうなら、それで良いか。そう言うストレス発散に付き合うのも俺の仕事。
新年のご実家での食事は和食メインだからか、蓄えとしてお嬢は洋食に食指を向けている。
「千鶴さん、中華の類いは」
「買う!!シュウマイと、あと豚の角煮が入ってる肉まん!!さすが虎治、忘れるところだった」
俺はただの荷物持ちで、笑っているお嬢を眺めているだけで良かった。
「ところで千鶴さん、こんなに買って冷蔵庫と冷凍庫は」
「え、あー……うん、大丈夫。いっぱい入るやつだし」
俺の片手に収まらなくなった総菜屋やパン屋の紙袋を下げながらパーキングまで戻り、出庫を待つ。饒舌だったお嬢がなんとなく言葉に詰まったのを察知したが、流してやる。
お嬢の自宅にまた上がらせて貰い、買ってきた惣菜やチルド品を冷蔵や冷凍のスペースに詰めようとして冷蔵庫の扉を開けさせて貰った。
「……」
お嬢が言葉に詰まった理由をみてしまう。
がらん、とした庫内。使いかけのジャムの瓶、使いかけのふりかけの袋がぺたりと張り付くように置かれているくらいには何もない。
「すぐ食わないといけないブツは下段に入れておきますから」
「ん、ありがと」
「冷凍モンも」
開けてみれば案の定、アイスクリームだけは入っているような冷凍スペース。冷凍食品もいくつか入っているが、がさごそと退かして入れるほどは物が入っていなかった。
お嬢は「食べていって」とまだキッチンに出ている惣菜のパックから見繕って、切り分けようとしている。
「私、一人だから炊飯器買ってなくてパックご飯だから……さっき栗おこわとか買ってきたやつを温めて食べよ」
「ええ、俺は何もお構い無く」
そうは言ったがこれ、お嬢一人では到底食いきれないように感じてしまう。つまりは全て、俺とお嬢で食べる分になる、のか。
「そうそう、虎治のジャケットが掛けられるハンガー用意したから脱いで。洋服掛けのところにあるから」
それ、良いジャケットでしょ、と言うお嬢。
「お皿とかもあんまりないから、温めなくていいやつはこのままでいいかな」
「ええ。あ、先にテーブル拭いてきます」
「何か乗ってたらデスクの上にでもよけといて良いから」
「承知しました」