娼館の人気No.1はハジメテの夜を夢見てる

幕間:言いたい言葉と伝えられる言葉は似て非なるもの(シャル目線)

それはここぞの時に寝てしまった翌日の昼間の事だった。


「シャスティール」

静かにそう呼ばれ振り向くと、そこには両手いっぱいの食べ物を抱えた同僚がいた。

「次の配置が決まった、すまないが急ぎで明日戻れそうか?」
「見た目から何一つ急ぎには見えないんだが···」

なんて言いつつ、こんな嘘を吐くメリットももちろんない事はわかっていて。

「終わりかぁ···」

思わずそう呟いた。




リリスになんて話そうか、寂しがってくれたりするだろうか、なんて考え···しかしいい言い回しは思い付かず。

「呼ばれた」

口から出たのはその簡潔な一言だけだった。

リリスの真っ赤な瞳が更に赤く潤み、前夜の情事を思い出し思わず前屈みになりかけて必死で脳内に団長の顔を思い浮かべる。

団長が一人、団長が二人、団長が三人····くそ、想像するだけで地獄だ。
真夏の蝉よりうるさいに違いない。

しかしそのお陰かなんとか持ち直し、呆然としている彼女と連れ立って女将の元に向かう。


「······もう少し積んでくれれば彼女を買い上げる事も出来るよ?」

< 137 / 308 >

この作品をシェア

pagetop