娼館の人気No.1はハジメテの夜を夢見てる
「·····あんた、何も食べてないだろう」

そんな私の姿を確認した女将は顔を覗き込み、ため息混じりにそう聞いた。

「そうね、お腹···すいたかも」
「だったら食堂へ行きな、ここは大丈夫だから休みなさい」

気遣われている。
それがちゃんとわかっているのに、その優しさが痛くて、もどかしくて、苦しくて歯痒くてもやもやして。
自分でも制御できないドロドロとした感情が足元から絡み付くように這い上がってきて。


「私みたいな陰気臭い女がいたら、売上にも影響出るものね。隠したいわよね、だったらさっさと女将も捨てればいいのに」


ーー違う、そんなこと思ってない。
心配してくれて、気遣ってくれて、居場所を作ってくれてるってわかってるのに。

どうしてそんな事を言ってしまったのだろう。
謝らなくちゃ。

女将の悲しそうな顔を見てすぐに後悔し、それでも次の一言がなかなか出なくて·······


「売上に影響か、過去の栄光って消えるのが早いんだなぁ。可哀相だから今晩は俺が買ってやるよ」

もたもたしている私の腕を強引に後ろから掴まれ驚いた。

「痛···っ!」

無理やり引かれ、鈍い痛みが腕に走る。
< 198 / 308 >

この作品をシェア

pagetop