娼館の人気No.1はハジメテの夜を夢見てる
···なんて思わなくもなかったが、「ま、仕事場ではないがここはあんたの家だからね。いつでも帰ってきたらいいよ」とも言われ、思わず笑ってしまう。

「女将は素直じゃないわね?」
「ほう、生意気言うのはこの口かい?」
「いひゃい、いひゃいわ、ごめんなひゃい!!」

両頬を思い切り左右に引っ張られ呻く私を見る女将は、とても穏やかな····母の顔をしてくれていた。


“穏やかに笑いながら頬をつねられるってのもなかなかない経験ね”なんて苦笑しつつ、暫しの別れに少し胸が締め付けられた。


「·······私を育ててくれてありがとう、お母さん」

そう呟くと、「あんたはまた生意気言って」と涙を溢す女将がそこにいて。

女将の涙は初めて見た。
そして“あぁ、私は本当に幸せだった”と実感した。


娼館を出る日、同僚だった皆が見送りをしてくれたがそこにメイの姿はなく、その事を少し残念に思ったのだが。


「リリス!」

娼館のドアを潜ろうとした時、逆に外から娼館に飛び込むようにしてメイが駆け込んできて。

「め、メイ!?」
「良かった、間に合わなかったらどうしようかと思った····!」
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