娼館の人気No.1はハジメテの夜を夢見てる
「心配、心配か······」
「なによ、文句でも?」
「いや」

クク、と少し笑った彼に、やはり私なんかがおこがましかったかしらと内心焦ったのだが。


「心配とかされたのいつぶりだろうと思っただけだ。·········ありがと、な」

そう素直に告げられ、じわりと頬が熱くなる。

“わ、笑ったら幼くなるのね···”

なんて英雄様の秘密を垣間見たようで胸が少し擽られた。


「もう、帰る?」

なんて口に出して、しまったと思った。
これではまるで誘ってるみたいじゃない!?

そんな私の焦りなんて気にもせず、「十分寝たしな」と身支度を整えるシャルを眺めていた。


初めて来た夜と同じように、荷物をまとめ振り返らずドアに向かうシャルの背中を眺める。
しかし初めて来た夜とは違い、ドアの前に立ったシャルはくるりと振り向き、再び私の前に戻ってきて。


「?シャ·····んっ」

ちゅ、と軽く重ねるだけのキスを残して去って行った。


“え····な、え?キス····え?今の、何のキス····!?”

魔法のトリガーを刺激する為でもない、ある意味“何の意味もないキス”に私の心臓が暴れる。

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