恋とプライド

⚪︎バイト先

木葉「お先に休憩入らせていただきます」

トレーにたくさんの料理を乗せて2階の休憩室に行く木葉。

木葉(休憩、一緒になったりしないかな?)
(話してみたいんだけどなー)

真帆の様子を見るためにショップの方をチラッと盗み見る。

レジには行列が出来ていた。

客「ねぇ、まだなの?!」

真帆「すみませーん」
「今すぐっ!」
「…あれ?これ、プレゼント用でしたっけ?」
「自宅用?」

客「プレゼント用だから包装してってこれ、三回目よ?」

真帆「包装紙代と紙袋代は」

客「紙袋は要らないから包んで!ってこれも三回目!」
「もう、どうなってるのよ」

真帆「すみませーん!」

テンパっている真帆。

木葉(どうしよう)
(私は手伝えないし)
(でも一人じゃ限界がある)
(杉本さんは…)

杉本の姿を探す木葉。

近くにいない。
どうしよう、とオロオロする木葉。

客「ねぇ!」
「いつまで待たせるの?!」
「もう買うのやめるわよ?!」
「ここに籠ごと置いて行くから!」

列の客の怒鳴り声。

木葉「大変だ!」

木葉、急いで下に降りて、配膳を終えたばかりの裕翔にコソッと声を掛ける。

木葉「お仕事中、すみません」

裕翔「なに?」

木葉「ショップのレジに列が出来ているのですが」
「木崎さん一人でどうにもなりません」

裕翔「杉本さんは?」

木葉「見当たらなくて」

裕翔「どこ行ったんだよ」
「こっちも急に客が増えて…」
「それに俺、ショップの方はやったことないからな…」
「あ、でももしかして」

考える裕翔。

裕翔「杉本さんの居所なら分かるかも」

木葉「では、ここは私が」

裕翔「大丈夫か?」
「今日人手足りてないから何かあってもフォロー出来ないぞ?」

木葉、自信満々の顔で。

木葉「大丈夫です」

(英会話は出来るしメニューも動線も頭に入っている)
(お客様の人数もピークは超えてるし)

木葉「お任せください」

木葉、自身の胸をトンと叩く。
裕翔、それを見て、少し逡巡してからひとつ頷き、ショップへと向かった。

客「すみませーん」

木葉(早速注文だ)

木葉「はい!」

木葉、ホールに出て注文を取る。
その間、ショップの様子が気に掛かっていたけど、動き回っている間に気にならなくなり。
そのうちに裕翔が戻ってきた。

裕翔「代わる」
「休憩行って」

木葉「ショップの方は…」

(どうなったか聞こうと思ったけど)
(行けば分かる)

木葉「休憩入らせていただきます」

木葉、2階に昇る。
するとレジに列はなく、お客さんは誰もいなくなっていた。

木葉「よかった」
「杉本さん戻って来てお客様対応出来たんだ」

ほっとするのも束の間。
杉本の怒声が響く。

杉本「何度言ったらわかるのよ!」

怒鳴り声にビクッとする木葉。
真帆は気だるそうに爪をイジっている。

杉本「お客様には丁寧な言葉遣いで対応して」
「レジもいちいち間違えるから時間かかるんでしょ?!」

真帆「レジは勝手に計算してくれるじゃないですかー」
「だから間違えてないんですよ」
「私が間違えるのはお釣りと包装紙代と紙袋代」

杉本「それが分かってるなら気をつけなさいよ!」
「レジ待ちひとつで購入意欲を無くして、再来店してくれなくなるんだからね!」
「クレームだって対応するの大変なんだから!」

真帆「もしかしてそれでいなかったんですか?」
「また商品こっそり渡して解決?」
「それってどうなんですかー?」

杉本「ちゃんとオーナーに許可得ているわ」
「ていうか話をすり替えないで」

真帆「分かってますよー」
「毎回毎回言われてるんだから」

杉本、真帆の面倒くさそうな言い方にイラっとして。

杉本「あのね」
「いい機会だからもう一度ちゃんと言っておくけど」
「お客さまから悪い口コミが広がると店全体の印象が悪くなって、最悪の場合、SNSに投稿されて潰れてしまうの」
「毎回毎回って、自分は言われなくても分かってる、出来ると思っているのかもしれないけど」
「その根拠のない自信がいずれミスを犯して、クレームが発生すれば周りの人の足を引っ張ることになるの」
「オーナーにはオーナーにしか出来ない仕事があるのにクレーム対応ばかりしなきゃいけないなんておかしいでしょう?」
「私だってお客様に謝るために追いかけたりしなければあの場でレジに立てたのよ」
「一人のミスがここで働く人たち全員に迷惑がかかるのよ」

真帆「だから分かってますって!」
「でも上手くいかないんだもん」
「どうしたらいいのかわからないんだもん」

泣き出しそうな真帆に、杉本、ため息をついて。

杉本「上手くいくように工夫してみましょう」
「私も一緒に考えるから」
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