恋とプライド
⚪︎休憩室
木葉、ぼんやりしながら冷めた料理を口に運ぶ。
そこに裕翔が。
裕翔「温かいのと変えてやろうか?」
木葉「え?あ、いえ」
「冷めても十分美味しいですから大丈夫です」
「ただ……」
裕翔、木葉の前に座って。
裕翔「杉本さんと真帆のこと?」
頷く木葉。
木葉「ガツンと一発くらった感じがしました」
裕翔、首を傾げて。
木葉「『自分は出来ると思っているのかもしれないけど』
『その根拠のない自信がいずれミスを犯して、クレームが発生すれば周りの人の足を引っ張ることになる』」
「私のことかと思いました」
(麻田さんを呼びに行った時、ホールの仕事を変わった)
(まだバイトを始めてから日が浅いのに)
(自信満々に大丈夫だと頷いて)
木葉「恥ずかしかったです」
「若輩者が調子に乗って仕事を変わったこと」
(即戦力って言われたことを友達にも自慢してしまった)
(逆学歴コンプレックスなんて言いながら)
(私はなんでも出来るってどこかで自分を高く見積もっていたんだ)
木葉「ミスして迷惑をかけること、その先のことを想像もぜす」
「働くことがどんなことなのか、分かっていないのに分かったつもり、出来るつもりでいて」
(勉強だけ出来ってダメだと思うと言っていた友達の言葉はまさにその通りだった)
木葉「私はなんでも考えが浅すぎるんです」
「なんでだろう」
「なんでこんな風になってしまったんだろう」
「そう考えると情けなくて」
悲しくて、顔を手で覆う木葉。
裕翔、席を立ち、木葉の体を抱きしめる。
木葉、驚いてハッとする。
裕翔「頑張ってるよ」
木葉「……」
裕翔「内野さんは頑張ってる」
「ミスして分かる人もいれば、ミスする前に気づく人もいるんだ」
「よかったじゃん」
「早めに気付けて」
「ミスしてからだと多分、内野さんの性格じゃもっと自分を責めるでしょ?」
無言の木葉。
裕翔、木葉を離す。
それから隣に腰掛けて、木葉の握りしめられた手を優しく握って。
裕翔「そんなに自分を責めるな」
「自分で自分を追い込むな」
木葉「そうしたいですが」
「悪いところばかりが目について」
裕翔、首を横に振る。
裕翔「卑屈になるな」
「そんなことばかり言ってるといずれ自分で自分を傷つけてしまう」
不安に駆られ、目が揺れる木葉に裕翔、真剣な表情で。
裕翔「自分を愛してやれ」
「いいところも、悪いところもひっくるめて」
「自分を愛してやれ」
「出来ないなら俺が愛してやるから」
木葉「え…?」
見つめ合うふたり。
裕翔、もう一度、木葉の目を見てハッキリと。
裕翔「俺が愛してやるよ」