恋とプライド

⚪︎木葉下校
電車に乗って

木葉(進展もなにも)
(私と麻田さんはただのバイト仲間でそれ以上でもそれ以下でもない)
(まぁ…)

木葉、車内にいる高校生を見て。

木葉(男子高校生と比較して群を抜いてカッコいいけど)
(カッコいいから好きってわけじゃないし)
(いや、好きっていうのも恋愛じゃなくて一人の人間としてだし)

ワタワタと落ち着かない木葉。

(あ、でもあの人も麻田さんに似て…る…?!)

木葉の視線の先には制服姿の裕翔が。

木葉(本人だ!)

カーディガンにグレーのスラックス。
一見しただけではどこの学校かわからない。

木葉(そういえば麻田さんがどこの高校なのか知らない…)

ジッと見つめる木葉。
木葉の視線に気づく女子。
木葉、それに気付いてパッと視線を逸らし、車窓に目を向ける。

女子「ねぇ裕翔、桜女子に知り合いいる?」

裕翔「え?」

裕翔、女子の視線の先を見る。

裕翔、木葉の元に移動して。

裕翔「学校帰り?」

木葉、ビクッとする。
そしてカタコトで。

木葉「アサダサン?!」
「どうしたんですか?奇遇ですねー」

裕翔、笑って。

裕翔「気がついていたなら声かけてよ」

木葉「すみません」
「お友達といらっしゃったので」

チラッと視線を向けると、1人の女子が近づいてくる。

女子「裕翔ー」
「その子知り合いなの?」

裕翔、そばにきた女子に。

裕翔「バイト仲間だよ」

女子「え?」

女子、木葉の姿を上から下に見て。

女子「桜女子って私立の女子校でしょ?」
「頭のいいお嬢様がいく学校」
「しかも進学校だよね?」
「なんでバイト?」
「訳アリ?」

木葉、答えに困っていると裕翔が代わりに答える。

裕翔「親の脛かじっているやつより全然よくない?」

木葉、ハッとする。

木葉(話の矛先をずらしてくれた)

女子「なにそれ」
「もしかして私のこと言ってる?」

不機嫌そうな女子。
木葉、心配でオロオロする。

女子「私だってやろうと思えばバイトくらい出来るわよ」
「でもパパが許してくれないんだから仕方ないじゃない」

裕翔「そうだな」

裕翔、それだけ言うと木葉にコッソリと。

裕翔「悪い」
「こいつのこと気にしなくていいから」

女子「ちょっと、なに?!」
「聞こえてるんだけど!」

裕翔「ったく、うるさいな」
「車内だぞ」
「騒ぎたいなら降りろ」

裕翔、女子の方を睨むように見る。
その視線を受けて女子、怯み、それからあからさまに不機嫌さを見せつけて元の友達の輪に戻る。

木葉「あの、大丈夫ですか?」
「私のせいでお友達関係が」

裕翔「大丈夫」
「あいつ、いつもあんなだから」

木葉「でも……」

オロオロする木葉。
裕翔、女子の方をチラッと見て。

裕翔「俺が他校の女子に声掛けたのが気にいらないんだよ」

木葉「もしかして彼女さんですか?」

裕翔「違うよ」
「俺のタイプは礼儀正しくて自分を追い込んじゃうような子だから」

木葉「変わっていますね」

真顔の木葉。
裕翔、フッと笑って。

裕翔「そうだね」

二人のやり取りを遠巻きに見ている裕翔の同級生たち。

男子「裕翔が笑ってる」
男子「珍しいもの見れたな」
女子「裕翔のタイプってああいう地味なお嬢様だったんだ……」

ギロっと木葉を睨む女子。

女子「なにが桜女子よ」
「バイト仲間よ!」
「絶対に渡さないんだから」

木葉、背筋に寒いものを感じて身震いする。

裕翔「どうした?」
「大丈夫か?」

木葉「空調かな?」

キョロキョロする木葉に裕翔、自身が着ていたカーディガンを渡す。

木葉「あ、大丈夫です!」

裕翔「バイトの時に返してくれたらいいから」

裕翔、木葉の肩にカーディガンを羽織らせる。

木葉「ありがとうございます」

照れながら受け取る木葉。

裕翔「素直でよろしい」

微笑む裕翔にドキッとする木葉。
俯くと、横から先ほどの女子の声が。

女子「裕翔ー!」
「降りるよ!」

裕翔「あいつまた大声出して」

イラっとする裕翔。
木葉を見て。

裕翔「じゃあまたな」

木葉「あ、はい」
「さようなら」

頭を下げる木葉に、笑顔を残して去る裕翔。

裕翔の香りが残るカーディガンで体を包み、ドキドキする木葉。

木葉(なにこれ)
(まさか私、麻田さんのこと……?)

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