恋とプライド

〇喫茶店

百華、制服を手にして。

百華「女子校だけど県内トップ」
「有名なデザイナーがデザインしたこの制服」
「私はめちゃくちゃお気に入りだけど」

木葉「うん」
「私もこの制服大好き」

(この制服、この学校に憧れて)
(色んなこと我慢して必死に頑張って手に入れた)

木葉「でも」
「学歴が恋愛の足枷になって」
「誰かを傷つけるなんて思ってもみなかったんだよね」
「それに入学して同級生の高いレベルにも圧倒されてる」

百華「たしかに」
「みんな優秀だから」
「頑張らなきゃ成績と順位は一瞬で落ちるよね」
「勉強と恋愛の両立なんて夢のまた夢だったなぁ」

頬杖ついて遠くを見つめる百華。

木葉「そうだね」

(実力差に圧倒されて)
(成績は伸び悩んで)
(人の気持ちがわからなくなってから塞ぎがちで)

目の前で届いたケーキを頬張る百華を見て。

木葉(百華が声をかけてくれなかったら今だに友達も出来てない)

木葉「百華と友達になれたことが入学していちばんよかったことだよ」

百華「私はね、木葉のこと、可愛いから入学式の日から気になってたんだ」
「私の方こそ友達になれて嬉しい」
「木葉といると鼻が高いの」
「あと木葉に教えてもらったこのお店も」

木葉と百華店内を見渡して。

木葉と百華「癒されるよねー」

オーナー「そんなに気に入ってくれているならバイトしてみない?」

木葉「え?」
百華「え?」

オーナー、木葉の分のケーキを置きながら。

オーナー「木葉ちゃんも百華ちゃんももう高校生だし」
「常連さんだからメニューはある程度頭に入っているよね?」

木葉(最低でも月一で通っているからメニューは大体覚えているけど)

オーナー「校則にバイト禁止はないでしょ?」
「2号店の方で土日来てくれてたバイトの子が急に辞めちゃって困ってるんだ」

木葉「そうなんですか」

(私で力になれるならなりたい)
(でも)

木葉「勉強しろって忠告されたばかりで」
「それにバイトしてる子なんて」
「ね?」

木葉、百華を見る。

百華「うちの学校は大学進学率100%の進学校だから」
「勉強優先でバイトしている生徒はいないね」

木葉、頷く。

百華「でも実は私、小学生の家庭教師頼まれてて」
「やってみようと思っているの」

木葉「そうなの?」

驚く木葉に、頷く百華。

百華「来年になれば受験を見据えて勉強しなきゃいけないから高1の終わりまでっていう条件付きだけど」

オーナー「いいね」
「バイトは社会経験になるから」
「もちろん大学生になってからでもいいんだけど」
「社会に出る前に自分でお金を稼ぐのは大事な経験かなと俺は思うんだ」
「だから木葉ちゃんも一年…いや次の子が見つかるまででいいからやってみない?」
「世界が広がるよ」

木葉「世界?」

オーナー「そう」
「木葉ちゃんも百華ちゃんも勉強漬けで学校と塾と家とたまにここのカフェしか行ってないでしょ?」
「世界はもっともっと広いんだよ」
「世の中には色んな人、色んな出会いがあるんだ」

壮大に語るオーナー。
咳払いをして我に返り。

オーナー「百華ちゃんのように進級するまでで構わないから」
「勉強の負担にならない程度に」
「どうかな?」

木葉「そうですね…」

考える木葉。
それからボソッと。

木葉「やってみようかな」

オーナー「ほんと?」

百華「大丈夫なの?」
「ご両親、許してくれる?」

木葉「説得する」

(違う世界に触れてみたい)
(それでなにか変わるかもしれない)
(このままなにもせず、コンプレックスを抱え続けたくはない)

木葉「急ぎ親の許可、もらってきますので」
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