恋とプライド

開店

裕翔「いらっしゃいませ」

打って変わった明るい笑顔。
驚いて裕翔を凝視する木葉に裕翔。

裕翔「『いらっしゃいませ』」

木葉「あ!」
「いらっしゃいませ!」

裕翔「声でかい」

睨まれる木葉。
萎縮しつつ、裕翔の動きを見て真似ていく。

正午を過ぎて店内には客がごった返す。
注文は基本的に裕翔と中谷がとり、木葉は食べ終わった食器や料理を運ぶことに徹する。

それからテーブルを消毒していると外国人観光客が木葉を呼び止め、質問が投げかけられた。

木葉、英語で対応。
それから厨房に行き、確認を取ってからまたホールに出る。

裕翔、皿洗い中の木葉に。

裕翔「さっきなんて聞かれた?」

木葉「さっき…?」

裕翔「外国人観光客」

木葉「あぁ!」
「ビーガンだから肉魚卵使ってないメニューはないかって」
「なので井上さんに確認して対応しましたが…」
「ダメでしたか?」

恐る恐る聞く木葉に裕翔、小さくため息吐いて。

裕翔「一体何者?」

木葉「え?」

裕翔「英語は完璧」
「対応もスムーズ」
「笑顔の接客も出来るし」
「洗い物も片付けも超早い」
「メニューもあの短時間で完璧に覚えただろ?」

木葉「1号店によく通っているので」

(英語は小4まで海外で生活していたからだし)

裕翔「だとしてもこっちの方がメニュー多いし」
「真帆が言っていたように覚えにくい」
「それなのにメニュー表を見ることなく飲み物、食べ物間違えなく対応してた」

木葉(不快な顔…)
(出過ぎたことをしてしまったのかもしれない)

木葉「すみませ」
裕翔「すごいな」

木葉の言葉に裕翔の言葉がかぶる。

木葉「え?」

下げた顔を上げると頭に裕翔の手がポンと乗った。
裕翔は満足そうな顔で。

裕翔「やるじゃん、お前」

木葉(褒め…られた?)

裕翔「なんだよ、その顔」

木葉「出過ぎたことするなって怒られるかと思って」

裕翔「そんなこと言うかよ」
「即戦力、最高だろ」

木葉「即戦力」

裕翔、ぼんやりしている木葉を指差して。

裕翔「そ」
「即戦力」

木葉、じわじわと褒められた実感が湧いて。

木葉「ありがとうございます!」

裕翔「うるさ」

耳を押さえる裕翔。

木葉「あわわ」
「すみません」
「でも」

(褒められるようなことここ最近なかったから)

謝りつつも、褒められたことが嬉しくて表情を和らげる。

木葉「思い切って新しい世界に飛び込んでよかったです!」
「仕事頑張ります!」

意気揚々と仕事に向かう木葉を見て、裕翔。

裕翔「変なやつ」

小さく呟き、フッと柔らかく微笑む。
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