すべてを捨てて、君を迎えに行く





そんなある日の事だった。

夜の世界へ飛び込んだ時からお世話になっており、この高級クラブへ移転した際にも迷わず着いてきてくれた古い客である鷹見に紹介したい人が居ると言われた。

ママからの信頼も厚い彼の紹介ならばと直ぐに入店を許可され、共に入ってきたのはかつての婚約者だった。




ーーこんな事って。

神様は何処までも自分が嫌いらしい。


彼とは元婚約者同士だったが、その関係は良好とはほど遠いものだった。


とにかく彼は星來の事を嫌っていた。

顔を合わせれば悉く酷い言葉を浴びせて拒絶してきた。


当時気が弱かった星來はその度に傷付き涙して、それが彼の怒りを助長させた。


そして家が破産して学校を辞めることになる前日、星來はひと言別れを告げたくて彼を呼び出した。



星來は彼の事が好きだった。

ストイックで他人にも厳しいが自分にはもっと厳しい。
二人の優秀な兄を持つ彼は三男という事もあって将来はそれほど重要な立場は貰えず家族の中でも力が弱い。
そんな逆光にも負けじと努力をする姿はとても素敵だった。

自分を嫌っていたのは百も承知だったが、どうしても挨拶をしたくて話をしようとした。


…が。



「お前みたいなクソ女に割く無駄な時間は無い。とっとと失せろ」


容赦のない暴言を浴びせられ、辛い別れとなった。










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