すべてを捨てて、君を迎えに行く
「…契約書と婚姻届は、一旦待ってほしい」
それでも、やはり今簡単に頷く訳にはいかない。
振り回されるのは自分じゃない。これじゃあNo. 1の名が泣く。
男を弄ぶのは、自分の仕事だ。
「私の気持ちが京弥くんに向くまで待ってほしい。それまでは今の仕事も続けるし、借金も君に返済する」
それで良いかなと聞くと、京弥は一瞬目を開いた。
けれど直ぐにいつものような魔王を彷彿とさせる顔へと戻り「上等」とニヤリと笑って言った。
全世界の女が恋に落ちそうなどろどろに甘い顔は最早欠片も残っておらず、そんな悪人顔にすらときめいてしまう自分はもうかなり重症かもしれない。
「それぐらいの気概が無いと俺の嫁は務まらねえわ」
そう言った京弥は、偉そうな言葉とは裏腹にとても嬉しそうしていた。