すべてを捨てて、君を迎えに行く
その後、星來は再び早見と同伴に赴き、以前に受けたプロポーズを丁重に断った。
そして一度は返事を有耶無耶にしてしまったけじめとして、京弥の素性だけを伏せてこれまで事を全て話すことにした。
かつて婚約者がいた事、そしてその婚約者と再び結婚する事も含めて言った。
「せっかく気を配って頂いたのに、本当に申し訳ありませんでした」
星來が深く頭を下げ、心からの謝罪を述べると早見は穏やかに笑った。
「聖羅ちゃんは律儀だなあ。良いんだよ、そんな顔しないで」
「いえ、でも…」
「…実を言うとね、僕は君を亡くなった妻に重ねていただけなんだ」
声を落として言う早見は両手を体の前で組み、悲しそうに目を伏せながら話し始めた。
早見は妻とは恋愛結婚だったが、彼女の身体が弱い事を理由に両親に猛反対を受けた事。
それでも早見は継ぐ予定だった会社を必ず大きくすると両親を説得して結婚をした。
けれどあまりの忙しさになかなか会えないうちに病気にかかり、短い結婚生活の末に亡くなってしまったそうだ。
「本当に聖羅ちゃんとよく似てたんだ。綺麗で努力家で…そんな彼女が大好きだった。けどあんなに啖呵切って結婚したのに、幸せなんて殆どあげられなかった」
罪悪感で押し潰されそうだったよ、と早見は続ける。
その後虚しさのあまりに夜の店を転々とし、そこで星來と出会ったと言う。
「儚げな雰囲気なのに芯がしっかりしていて、また彼女に逢えたみたいで嬉しかった。君を幸せにしたいと言ったのは…彼女への贖罪のようなものなんだ。只の僕のエゴだよ」
「…早見さん」
「だから君が幸せになってくれたらそれで良い」