すべてを捨てて、君を迎えに行く



言葉にならない思いでいっぱいになって涙を浮かべる星來に、早見は目元の皺を寄せてとても優しい笑顔を見せた。


「聖羅ちゃんは、その婚約者くんのことが好きなんだよね?」
「…はい」


肯定の言葉を口にすると妙に実感が湧いて、ひどく恥ずかしくなった。


「かなり乱暴な距離の詰め方されましたし、自分でもどうかと思うんですけどね」
「はは!そういう子を手懐けるのはお手のものじゃないか」


言われてみればそうかもしれない。
現に今こうしてプロポーズを保留にして仕事とはいえ他の男と会っているのだから。



同居も持ちかけられたがそれも断った。
この仕事をする上で誰かと生活を共にするのは面倒だったから。

そうしたら京弥はまた店に現れるようになり、以前の星來の言葉が効いたのか他の女の子達とも少しは絡むようになった。

態度は素っ気ないがまあそこは彼女達もプロだし信頼している。
正直それよりまた店中から送ってこられるようになった生暖かい視線の方が居心地悪い。


何度かプライベートでデートをしたが、泊まりや旅行は一切なし。日帰りの現地解散だ。

今どき小学生でももっと進展早いわ!と怒鳴られたが知ったことではない。
長年で染みついた危機管理能力はすぐには消えないし、何よりあれほど強引に婚約を勧めた男が送り狼にならない保証は無い。


早速苛立ち始めているのは見ていて分かるが、いつ音を上げてくるか少し楽しみにしている部分もある。





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