すべてを捨てて、君を迎えに行く
けれどこう見えて星來だって京弥の事は好きだ。
だから今こうして半年後には退店する事を決め、それに向けてお世話になった方々にお礼をしている最中なのだから。
「そっか。あと半年かあ…」
「急ですみません」
「良いんだよ。でもそっか、寂しくなるなあ」
早見は組んでいた手を解き、前に突き出してグーっと伸ばした。
「推しが幸せなのは良い事だけどやっぱり寂しいなぁ。聖羅ちゃんと話せるの、唯一癒される推し事だったのに」
にこっと悪戯っぽく微笑む早見に一瞬星來はきょとんとしてパチパチと瞬きをしたが、すぐにプッ吹き出して思わず笑ってしまった。
「早見さん、推しの使い方が上手になりましたね。さすがです」
そう褒めると、早見は「でしょ?」と照れたように笑った。
「…じゃあ元気で。幸せになってね」
「はい。本当に、ありがとうございました」
これまで大切にしてきた縁を解くのは寂しかったが、それでも星來が大事にしたいと思うのはただ1人だった。