ハニトラしてこいと言われたので、本気を出してみた
ひそかに行動する機会が、ほぼなかった。
セルマの自負する「したたかさ」も、型なしである。
これは「商会が危機に陥りセルマが異常な忙しさに見舞われた」などの理由ではない。
招待状を受け取った日以降「ドレスのお針子を手配しました」「ダンスの講師を手配しました」と、フィンレイが何かと理由をつけてランス伯爵のタウンハウスを訪れたからである。
伯爵も心得たもので、フィンレイを丁重にもてなし、セルマには仕事の休暇を言い渡して準備に励むようにと言ってきた。
そこまで気を遣う相手なのですか? と面食らいながら、「せっかくなのでお茶を」「家族向きでご用意もありませんが晩餐をぜひご一緒に」と誘う形になり、自然とフィンレイと一緒に過ごして、会話をする時間が増えた。
こそこそ探ることなく、正面から向き合ったフィンレイという青年は実直で好感の持てる人柄であり、これならモテるだろうし、もしかしたら偽装恋人は本当に切羽詰まって必要なのだろうとセルマは納得した。その一方で、この時点でもまだ「偽装恋人」の話が一切出てこないことに悩み始めてもいた。
結局、何が目的なのだろうか?
カスミソウ以外にも好きな花はありますよ、とうっかり言ってしまったことにより、いまや部屋中がフィンレイから贈られた数多の花で埋め尽くされて、屋敷中の花瓶総動員状態だ。
(こんなに花を贈られたら、たいていの女性は「彼は自分に気がある」と思うのではないの? 私が勘違いしたらどうするの? どう決着をつけるつもりなの、この関係)
夜会までの二週間は、またたくまに過ぎた。
* * *
セルマの自負する「したたかさ」も、型なしである。
これは「商会が危機に陥りセルマが異常な忙しさに見舞われた」などの理由ではない。
招待状を受け取った日以降「ドレスのお針子を手配しました」「ダンスの講師を手配しました」と、フィンレイが何かと理由をつけてランス伯爵のタウンハウスを訪れたからである。
伯爵も心得たもので、フィンレイを丁重にもてなし、セルマには仕事の休暇を言い渡して準備に励むようにと言ってきた。
そこまで気を遣う相手なのですか? と面食らいながら、「せっかくなのでお茶を」「家族向きでご用意もありませんが晩餐をぜひご一緒に」と誘う形になり、自然とフィンレイと一緒に過ごして、会話をする時間が増えた。
こそこそ探ることなく、正面から向き合ったフィンレイという青年は実直で好感の持てる人柄であり、これならモテるだろうし、もしかしたら偽装恋人は本当に切羽詰まって必要なのだろうとセルマは納得した。その一方で、この時点でもまだ「偽装恋人」の話が一切出てこないことに悩み始めてもいた。
結局、何が目的なのだろうか?
カスミソウ以外にも好きな花はありますよ、とうっかり言ってしまったことにより、いまや部屋中がフィンレイから贈られた数多の花で埋め尽くされて、屋敷中の花瓶総動員状態だ。
(こんなに花を贈られたら、たいていの女性は「彼は自分に気がある」と思うのではないの? 私が勘違いしたらどうするの? どう決着をつけるつもりなの、この関係)
夜会までの二週間は、またたくまに過ぎた。
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