【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
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「お初にお目に掛かります、私は魔法都市の薬師フェリーネ・ファン・アハトと申します」
「……おとぎ話の薬師が、私になんの用だ?」
「ベネディック・バルテルス公爵様、唐突ですが貴方様を含めた領地の方々の奇病を癒したいと考えております。つきましては、二年だけ婚姻関係を結んで頂けないでしょうか?」
「は?」
口にした瞬間、ベネディック様の表情が険しくなるのを見て、酷く後悔した。そうでしたわ。この方は──外見があの方とそっくりだったとしても転生した、私の知らない人でした。
金髪の長い髪を三つ編みでまとめて、美しいエメラルドの瞳は刃のように鋭い。細身だけれどガッシリとした姿は、今世のほうが体格は良いのだろう。
左頬から左肩、腕、指先に掛けて樹木になりつつある姿が痛ましい。ベネディック様を含めた領民が《世界樹ノ忿懣》と呼ばれた奇病にかかっている。
小指などは既に若葉が芽生えつつあるわ。「大丈夫、ギリギリ間に合う」と思ったら口元が緩んだ。でも彼としては不快だったのか、眉を吊り上げた。
「何が可笑しい。……二年とは、私の死期でも計算したものか?」
「ああ、すみません。進行状況が思ったよりも悪化してなかったので、これなら完治できると思って安心しました!」
「完治?」
ベネディック様の地雷だったのか、更に怒りを煽ってしまった。想像していたよりもずっと短気でいらっしゃるよう。ふふっ、それはそれで新鮮だわ。
「はい。魔法都市が常に空中移動しているのは、世界中で発現した奇病を癒すためなのです」
「お伽話だろう」
「(そう言われてしまうほど、地上ではそれだけの年月が経ってしまったのね)……本来、《世界樹ノ忿懣》は、神々の祝福を持つ一族が扱っていたのですが、おそらく歴史の中で正しい扱い方が伝わっておらず、奇病として発症してしまったのです」
「それと私の婚姻と、なんの因果関係があるのだ?」
「世間体と領の権限が使えることですわ。公爵夫人であれば、領民を治療するにも説得しやすいでしょう? それに結果的に領主様の支持率も上がります」
訝しげに私を値踏みする。うん、慎重なところは変わっていませんわ。
でも半分は本当。公爵家お抱えのただの薬師と、公爵夫人であり薬師では、対応の差が全く違う。
前はそれで酷い目にあったもの。保険は掛けておきたいし……それに書類上でも、この方と家族の枠に入りたい。あの方は家族みたいな関係だったけれど、実際の家族ではなかった。だからこその契約結婚、政略結婚よね。お互いのメリットのため偽装夫婦になるのだから。
「婚姻は二年。慰謝料も財産分与もなし。その代わり《世界樹ノ忿懣》で回収した種は、私が保管させて頂きますね」
「財産分与もなし?」
「はい。それに国王陛下からも推薦状を持ってきているので、身元はしっかりしていますわ」
「──っ」
「お初にお目に掛かります、私は魔法都市の薬師フェリーネ・ファン・アハトと申します」
「……おとぎ話の薬師が、私になんの用だ?」
「ベネディック・バルテルス公爵様、唐突ですが貴方様を含めた領地の方々の奇病を癒したいと考えております。つきましては、二年だけ婚姻関係を結んで頂けないでしょうか?」
「は?」
口にした瞬間、ベネディック様の表情が険しくなるのを見て、酷く後悔した。そうでしたわ。この方は──外見があの方とそっくりだったとしても転生した、私の知らない人でした。
金髪の長い髪を三つ編みでまとめて、美しいエメラルドの瞳は刃のように鋭い。細身だけれどガッシリとした姿は、今世のほうが体格は良いのだろう。
左頬から左肩、腕、指先に掛けて樹木になりつつある姿が痛ましい。ベネディック様を含めた領民が《世界樹ノ忿懣》と呼ばれた奇病にかかっている。
小指などは既に若葉が芽生えつつあるわ。「大丈夫、ギリギリ間に合う」と思ったら口元が緩んだ。でも彼としては不快だったのか、眉を吊り上げた。
「何が可笑しい。……二年とは、私の死期でも計算したものか?」
「ああ、すみません。進行状況が思ったよりも悪化してなかったので、これなら完治できると思って安心しました!」
「完治?」
ベネディック様の地雷だったのか、更に怒りを煽ってしまった。想像していたよりもずっと短気でいらっしゃるよう。ふふっ、それはそれで新鮮だわ。
「はい。魔法都市が常に空中移動しているのは、世界中で発現した奇病を癒すためなのです」
「お伽話だろう」
「(そう言われてしまうほど、地上ではそれだけの年月が経ってしまったのね)……本来、《世界樹ノ忿懣》は、神々の祝福を持つ一族が扱っていたのですが、おそらく歴史の中で正しい扱い方が伝わっておらず、奇病として発症してしまったのです」
「それと私の婚姻と、なんの因果関係があるのだ?」
「世間体と領の権限が使えることですわ。公爵夫人であれば、領民を治療するにも説得しやすいでしょう? それに結果的に領主様の支持率も上がります」
訝しげに私を値踏みする。うん、慎重なところは変わっていませんわ。
でも半分は本当。公爵家お抱えのただの薬師と、公爵夫人であり薬師では、対応の差が全く違う。
前はそれで酷い目にあったもの。保険は掛けておきたいし……それに書類上でも、この方と家族の枠に入りたい。あの方は家族みたいな関係だったけれど、実際の家族ではなかった。だからこその契約結婚、政略結婚よね。お互いのメリットのため偽装夫婦になるのだから。
「婚姻は二年。慰謝料も財産分与もなし。その代わり《世界樹ノ忿懣》で回収した種は、私が保管させて頂きますね」
「財産分与もなし?」
「はい。それに国王陛下からも推薦状を持ってきているので、身元はしっかりしていますわ」
「──っ」