【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
 ***

 《世界樹ノ忿懣》の診察も落ち着いてきて手持ち無沙汰になった私に、ベネディック様は「領地経営の手伝いをしてほしい」と声を掛けて下さった。

「フェリーネ。上から三段目、右から五番目の本をとってくれないか?」
「はい。……ん、んん! ふぬぅううう」

 私では拳一つ分ほど届かない。背伸びをして僅かに本を引っ張ることができたのだが、両隣の本も勢いよく目の前に飛び込んできた。

「!?」

 本がバラバラと床に落ちる中、痛みがないことに違和感を覚える。

「あれ?」
「君は思っていた以上に横着なのだな」
「ベネディック様!? す、すみません!」

 私を抱きしめて咄嗟に庇ったようだった。ギュッと抱きしめられた腕はガッシリとしていて、男の人だと意識してしまう。
 はわわわ。胸板が……! なんだか良い匂いがする。ベネディック様は私を抱きしめたままだ。

「あ、あの……ベネディック様?」
「……」

 顔を上げるとエメラルドの美しい瞳と目が合った。最初の時のような鋭くて刃のような眼差しじゃなくて、熱を孕んだような瞳に吸い込まれそうになる。ベネディック様?

「フェリーネ」
「!?」

 甘く囁く声が痺れそうになる。ぐっと近づく顔に抵抗できず身を任せた。初めてのキスは衝撃が大きすぎて、卒倒してしまった。
 起きたらベネディック様は顔を真っ青にしていて、ずっと手を握ってくれていたことが嬉しかった。そうやって少しずつ時間を掛けて、ベネディック様との距離を縮めていった。

 寝室を一つにしたいと言われた時は、思わず聞き返してしまったけれど、よく考えていたら夫婦なのに別けているのが可笑しいわよね。
 形だけの契約結婚が変わったのは、いつから?
 毎日が幸福だった。
 アルフ様が騎士学校に入ることになって、領地から王都に行った時は少し寂しかったけれど、ベネディック様の仕事を支えて毎日を過ごしていた。

 タイムリミットは決まっている。
 そのことを話したかったけれどタイミングが悪く、次の青薔薇の咲く頃に、国王陛下が公爵家に遊行すると言い出したのだ。
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