【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
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 ベネディック様と顔を合わせたのは、それから一週間後だった。
 痩せて疲れた──というよりも今まで一番肌つやが良く生き生きして、朗らかな笑顔を向けてくる。奇病が完治してからより美しくなったベネディック様に、少しだけ見惚れてしまった。
 私が一緒に居たよりも、充実した日々を過ごしていたのがよく分かる。それぐらいわかるぐらいは、一緒にいたもの。わかってしまうことがなんだか悲しい。
 会えないのが寂しかったと思うのは……きっと私だけなのでしょうね。
 今の私、上手く笑えているかしら?

「お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま。フェリーネ」

 二人だけの食事は穏やかで会話も弾んだ。これももうすぐ終わると思うと、泣きそうで上手く笑えていなかったと思う。 
 寝室で明かりを付けたままだと体が半透明になるのに気づかれてしまうので、照明を少し落として貰った。
 ベッドに座り、旦那様に思い切って尋ねる。

「……ベネディック様。スサンナ様が言う婚姻関係についての常識や、……あい」
「……?」
「……あ……ええっと、スサンナ様の言う礼儀作法(愛人を持つ)は、貴族社会なら当たり前なのでしょうか?(これで伝わったかしら?)」
「ん? ああ。……君の知人で、礼儀作法(カーテーシ)に関してなら、彼女が適任だと思うよ。君と年も近いだろう」
「(知人? ……ベネディック様が紹介したのに? でも適任ってことなら……)ベネディック様……」
「そんなことよりも、明日もやるべきことがたくさんある。早く寝てしまおう」

 話を切り上げて、ベネディック様は私を抱きしめる。彼の腕の中はいつも温かくて安心できたのに、今日はそう思えなかった。
 ベネディック様にとって礼儀作法なんて「そんなこと」なのね。

「愛しているよ、フェリーネ」
「私もです。……でも、あい……んー、貴族社会のあり方は……私には合いそうにありません」
「面倒なら国王陛下と謁見する時だけで、君が社交界に出る必要はない。私の傍に居てくれれば、それだけで十分だ」
「──っ」
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