【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
この先ずっと、ベネディック様の隣に立つのは私ではなく貴族の身分のある人であるべきと、この方もそう考えている?
私の言っている意味は理解できているのに、食い違っているような違和感を覚える。でも……もし認識の通り彼の口から「愛人として傍にいてほしい」と言われたら、きっと耐えられない。
その可能性がゼロじゃない以上、怖くて聞き出せない……。
「明日は久し振りにゆっくりしよう。ああ、王都でアルフに会って来たが、大分逞しくなっていたよ」
「まあ、アルフ様は元気なのですね」
「君にも会いたがっていたよ」
アルフ様は時々手紙を送ってくれたけど、自分の近況よりも王都で有名な菓子の感想や、それを私に送ってくれていた。そんなアルフ様も、今回のことは聞いているのかしら?
本当は愛人のことを聞きたかったけれど、抱きしめられた腕の温もりが温かくてこの時間が終わってほしくない。
そうだわ、明日はゆっくりするのだから、その時に話そう。あの場面を目撃するまでは、そう思っていた。
***
いつもなら朝までぐっすり眠れるのだけれど、雨の音で目が覚めた。
「……ん」
窓を叩く雨音と、気温がぐっと下がったせいでかなり寒い。時折、カシャン、と何か割れるような音が聞こえた。
「ベネディック様?」
隣で眠っていたベネディック様の姿もない。
こんな時間にどこに?
もしかして毛布を探して?
このままでは風邪を引いてしまうと思い、毛布を取りに寝室を出た。ここで公爵夫人ならベルを鳴らして使用人を呼ぶのだろうけれど、足が動いてしまった。それに最近入った侍女は私にあまりいい感情を抱いていないのよね。
「────、────!」
なにやら屋敷内が騒がしい。急病人?
足早に向かうと、そこには金色の長い髪を振り乱したスサンナ様が、白のナイトドレス姿でベネディック様と言い合いをしていた。
ベネディック様は背中を向いているので表情はわからないけれど、スサンナ様は明らかに取り乱して泣いている。
「──、わかった」