【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

「わ、私も悪かったのです……。もともと二年契約でしたし、押しかけて無理に夫婦になったのですから」
「最初がそうだったとしても、妻は君以外に考えられない。フェリーネ、私は君を愛している。どうかこの地に止まって私の隣に、妻としていてほしい……頼むっ!」
「──っ」

 ベネディック様は、今にも崩れそうな私の頬に手を当てて懇願する。ベネディック様の熱は心地よくて、涙が溢れた。

「私も……もし叶うのなら、一緒に……でも……この転移魔法は私では止められないのです」
「なっ……だとしても、すぐに戻って来るのだろうか。いや私が魔法都市に迎えに行く!」

 アルフ様と同じことを言うので少しだけ笑ってしまった。やっぱり兄弟だわ。なんだかほっこりしてしまう。ベネディック様なら迎えに来てくれるかもしれない。そんな淡い期待を抱いてしまう。
 ああ、戻りたくない。
 ここに、居たい。そう思っても体の形が崩れ、数分も持たないだろう。
 それでも──。

「帰りたくない。……ベネディック様と、アルフ様と……ここを離れたくない」
「フェリーネ」
「ベネディック様」

 諦めてかけた時、発動していた魔法陣がピタリと止まり、体が引っ張られる感覚がかき消えた。

「え? これは……」
『まったく、巨大な魔力を感知して来てみれば……。相変わらずフェリーネは、魔力制御と使い方ができていないんだから』

 光の粒子になりかけていた私の体を元に戻し、強制送還用の魔法陣を解除。緻密な魔力コントロールをサラッとしたのは、霊体姿の現国王クリストフェル・オールストレームであり、かつての同僚セリオだった。

「クリストフェル国王陛下!?」
「……!?」
「セリオ、貴方霊体で来るなんて……!」

 ベネディック様の言葉に、セリオは「おっと」と照れながらも四十代前後のダンディな男性から、髪が長く白い衣を纏った青年に姿を変えた。前世(セリオ)の姿だわ。

『いやー、今世でもやってみたら、できちゃうって、やっぱり僕ってどの時代でも天才だったんだな』
「(そういう所、昔と変わってないのね)セリオは出会った時から凄かったわ」
「国王陛下、我が太陽であり──」
『ああ、非公式だから長ったらしい前口上は不要だよ』
「ハッ」

 ベネディック様とアルフ様は、素早く片膝を突いて深々と頭を下げた。
 セリオは説明を求める私の視線に気づいたのか、咳払いをして誤魔化す。
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