【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
意外な申し出だったのか、目を見開いて驚く。そんなに信用がないなんて悲しいわ。私はベネディック様の前世を知っているけれど、この方は私を知らないもの、しょうがないわよね。
この世界では転移転生はよくあること。魂は流転し、生まれ変わる。前世の記憶を持って生まれる者もいれば、忘れて新たな人生を歩む者もいる。ベネディック様は後者。それはちょっとだけ寂しいけれど、でも久し振りにあの方と瓜二つの姿を見られたのだもの、役得だわ。何よりこの方のお役に立てる。
「…………何が目的だ?」
「(私の目的はすでに叶っているようなものだけれど……)二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
「弟君だけではありません、この領地に掛かっている方全員を完治させますわ」
「それは結構なことだ」
それがベネディック・バルテルス様と交わした契約結婚の内容だった。
結婚式は行わず、教会で書類を書いて神官に提出する。ドレスも、指輪はさすがにないとあれなので、シンプルだけれど、公爵家的に品がなさすぎない物を選んだ。
公爵夫人、自分でも相応しくない名称だと苦笑する。それでも、あのお方の役に立てる日が来たことが嬉しい。私が生かされた意味、またあの方の姿が見られただけで充分だわ。
でもそう思っていたのは私だけのようで、周囲は「公爵家の財産を狙った得体の知れない女」と映ったのだろう。ご両親も親戚一同も奇病あるいは、事故死してしまったため、公爵家を乗っ取るには都合のいい条件が揃っていたからだ。私にその気はないのだけど。