【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
『バルテルス公。僕には前世の記憶があってフェリーネとは縁がある。彼女は奇病や病を放っておけないというか、根っからの薬師でね。今回地上に降りる際に、色々と協力をしたんだ』
「契約結婚の話も陛下が?」
『あー、まあ、あれはこの子が酷い目に遭わないためにも、それなりの身分が必要だったから用意した。それに彼女個人もそれを望んでいたし』
「せ、セリオ!(それは言わない約束だったのに!)」
「…………」
『二人の行く末がどうなるのか、どう話をつけたのか。二年契約前に様子を見ようと思って、非公式で遊びに──様子見する予定だったのだけれど』
「(今、遊びにって言いかけたわ)」
「(今、遊びにって言ったな)」
『計画の途中で王妃にバレてしまってね。そのだな、大々的になってしまったのだ。はははっ、すまない』
「(そして途中途中で今の口調に戻ったりするのね)強制送還されるところだったから、そのことに関しては本当に助かったわ」
セリオの思いつきから大事になったけれど、それはそれとして、今ここに彼が来てくれて良かった。
『本当に君は昔から魔力だけは誰よりも高いのに、操作と使い方はからっきしだったからね。まあ、でもそれでよかったのだろうけれど』
「え?」
「とりあえず半年時間を上げるから、今後どうしたいのか公爵と話をして決めると良い。どちらを選んでも、僕がなんとかしよう』
「どちらもって……」
『魔法都市に戻らずにすむ良い方法があるってこと。だからフェリーネはそれを理由に結論を出さないことだ。バルテルス公も、侯爵家のほうは僕が対処しておこう(それがエルベルトとの古い約束でもあったからね。もっとも今世で、前世の記憶を引き継いではいないようだけれど、そのほうが幸せだろう。彼女にとっても、彼にとっても)』
「陛下、過分なお心使い痛み入ります。私が未熟なばかりに、妻であるフェリーネや陛下に迷惑をかけて申し訳ありません」
セリオは嬉しそうに笑った。
『いいさ。フェリーネ、前世では言えなかったが、君は幸せになっていいんだからね』
「──っ」
それは私の中に突き刺さった棘を抜き取る言葉だった。もしかしたら前世でも、何度も同じ言葉をかけられていたのかもしれない。でも私は、受け取ろうとしなかった。
明けない夜を望みながら、夜明けを待ち焦がれていた──矛盾をない交ぜにした気持ちのまま、ずっと停滞を選んでいたから。それを変えてくれたのは、エルベルト様の魂を持った──けれど別人のベネディック様だった。
薬師としての《役割》が終わる。その最後に出会えて良かった。