【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

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 6.ベネディック公爵の視点

 奇病《世界樹ノ忿懣》が発現した時、目の前が真っ暗になった。母の病死、父の事故死、親戚のみなが軒並み死んでいく恐怖。末の弟すら、自分よりも症状が早い。
 みな死に絶えていく中、伝承や伝説に聞く空中移動要塞、魔法都市が目の前を通過した時は頭が可笑しくなったかと思った。稀に空人が降りてきては、治癒あるいは薬を処方して気まぐれに癒すとあったのだが、本当にそんなことが起こるとは思ってもいなかった。おとぎ話の産物だと思っていたのだから。

 現れた女性を見た時、衝撃と共に言いようのない感情が湧き上がった。淡い若草色の長い髪、金色の瞳、白い肌に、白い服の──綺麗な人だ。よくわからない様々な感情を煮込んだような、形容し難い感情が噴き出す。
 怒り?
 拒絶?
 苛立ち?
 違う。けれど彼女を前にすると感情が制御できず、荒々しい言葉に視線が鋭くなってしまう。奇病を治す手立てがあると口にする言葉に、嘘がないのが分かっているのに、溢れ出す感情が渦巻いて、自分でも驚くほど酷い言葉を返した。

 それでも彼女は困ったように微笑むだけで、奇病で心も体も疲弊しているのだと受け取った。自分の奇病を気持ち悪いとも言わず、真摯に接する。
 自分にできるのは客人対応を徹底させて、嫌がらせやぞんざいに扱うことを禁止した。

「旦那様が素っ気ないから、下の者も下に見ようとするのですぞ。反省してください」
「ぐっ……」

 自分が蒔いた種の大きさに猛省する。最初に盛大にやらかした後で、彼女にどう接して良いのかますます分からず、彼女の言葉通り塗り薬はこまめに行い、薬も飲んだ。
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