【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
毎回、アルフに薬を塗っているのを見て「自分も素直に受け入れていたら、フェリーネから触れてくれるのに」と弟に嫉妬して、自分の器の小ささに愕然とした。
本当に愚かだ。
彼女に声を掛けたくても、きつい言葉になってしまう。違う、そうじゃない。
「ベネディック様、お顔の塗り薬は足りていますか? 人によっては個人差があるので薬の調合もしますので……」
「問題ない」
そっけない言葉で会話終了。けれどそれで彼女と話すのが終わるのは嫌だ。気づけば彼女の袖をちょっと掴んでいた。
「──っ!?」
「ベネディック様? もしかしてどこか辛いのですか? それとも肌が少し痒いとか? 最近流行病で体調を崩す方もいるのです」
薬師モードになった彼女は、ぐいぐい来る。そこがちょっと愛らしい。
背伸びして私の額に手が触れた瞬間、衝動的に抱きしめたくなった。自分でもわけがわからない感情に困惑する。グッと堪えたのを不調と捉えたのか、彼女は「顔色も悪いですから今日は休んでください」と手を引いて自室へと促される。
お人好し過ぎないか? 天使か?
彼女が自分の寝室にいる。甲斐甲斐しく世話を焼き、心配そうになる彼女を、フェリーネを見て、ずっと自分の中に燻っていた感情の正体を知る。
何のことはない、出会ったあの日から、私は彼女に一目惚れをしていたのだ。
ただ自分でも今まで感じたことのない、魂の底から湧き上がる感情が複雑すぎて、自覚するのに時間がかかった。
そして自覚した途端、どす黒い独占欲が腹の底から湧き上がる。自分ではない誰かを重ねるような眼差しや、薬師としての顔を保ったまま話しかける姿を見るたびに苛立ってしまう。本当はもっと話がしたいのに、言葉がうまく出ない。
愛と呼ぶには重く歪すぎる。だが自覚してしまったら、もう誤魔化すことも抑えることもできなかった。
流行病の非常事態だったからこそ、フェリーネとの関係を再構築する機会を得た。使用人や弟の協力を得て、彼女が自由に動けるように、そして……少しだけ関わる機会を得られるようになり、ようやく彼女に謝罪ができた。