【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

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 7.セリオの視点

 《賢者の石》の上位互換、それが《神之雫》であり、七人の魔導師(僕たち)がそれを作り上げた時、神の御技に近づいたと単純に喜んだ。
 性格も考え方も、生まれも育ちもまちまちで王族だった者もいれば、孤児だった者も、犯罪者であり、神と崇められた者までいた。まとまりのない価値観も常識も異なる中で、探究心と好奇心──魔法の研究だけが僕たちを繋いでいた。純粋に世界を構築した神々の頂きを目指した変わり者たち。
 それが変わったのは、死にかけの少女(フェリーネ)との出会いだった。

 最初彼女は白銀の長い髪、陶器のような体、小さく蹲る少女の体は常に発光していて、明らかに人ではなかった。そして彼女に心臓がなく、死にかけていた。
 僕たちの作り上げた《神之雫》を与えて延命処置を行う。それは偽善とか救いたいとかではなく、純粋な興味だった。欠落した神モドキを神に戻せないかという知的好奇心、衝動にも近かっただろう。どれだけ罪深いことか、僕たちは知らなかった。

 その結果、七人の魔導師(僕たち)は一人の少女の人生を大きく変え、彼女は神と同格の存在に底上げしてしまった。
 僕たちの好奇心と傲慢さによって、少女は不老不死になり、世界の歯車となった。そして僕たちは神々の計画を妨害したとして、呪いを受ける。少女を見守り導く《役割》を押し付けられ、しかも死しても転生して繰り返されるおまけ付きだ。
 悲観はしなかった。

 僕たちは退屈が嫌いだ。厄介ごとも嫌いだが、研究しがいのあることが大好きだった。神々の呪いなんて、祝福と表裏一体だ。使い方次第では面白いことができそうだと、僕は思った。だから、あの日、エルベルトの提案にも賛成した。

「自業自得だけれどさ、これを絶対にフェリーネには言うなよ」
「了」
「決まってんだろうが」
「だよねぇ」
「うんうん」
「うーん。呪いを引き継ぐのは、私だけで良いのだけれど?」

 黒い痣が体を蝕んでいても、七人の魔導師(僕たち)はあっけらかんとしていた。自らの呪いについて研究する者が殆どで、自分たちの言動になんら後悔などない。大魔導師エルベルト()も同じだった。

「じゃあ、呪いがヤバそうな者から魔法都市を出て行く方向で。フェリーネには絶対に『サヨナラ』は言わないこと『オヤツは一人金貨一枚まで』あと、荷物は最小限に」
「「「遠足かよ!?」」」
「ウケる」
「まあ、良いけど。──にしても、大魔導師エルベルト様にしては、ずいぶんと消極的な方法だねぇ。どんでん返しとかすると思っていたけれど?」

 僕は軽口を叩き、エルベルトは困った顔で微笑んだ。「いつだって不可能を可能にしてきた男が何を迷っているのか」と、少しだけ茶化して聞いてみた。そして返ってきた答えは──。
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