【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

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 魔法都市、それは七人の魔導師たちが作り上げた空中移動要塞のことだ。そこにはこの世界の様々な奇病の種が眠っているし、対処方法などの記録保管場所(アーカイブ)もある。
 私は、その魔法都市の最後の薬師。魔導師たちのような特別な力はない。私の《役割》は、誤った形で発現してしまった奇病を完治させること。

 この時代、魔法都市はおとぎ話というのだから、不思議な感覚だ。もっとも奇病が発生した時にしか地上に降りないので、数十年、下手すれば数百年ぶりだったりする。
 奇病の発生時に訪れることができれば良いのだけど、常に移動している魔法都市の飛行ルートを急には変えられないし、見知らぬ地に転移魔法を使うことも難しい。そもそも私は魔法操作ができないので、現地到着に時間がかかってしまう。

 教会を借りて領地の人たちに《世界樹ノ忿懣》の説明をしたのだが治療を断る人ばかりだった。不治の病だと決めつけて、私を詐欺師扱いして……。治療費を貰わないと言えば、実験台にされたくないという。
 ただ一人、アルフ様は症状が重く、車椅子生活だったからこそ「治るなら」と治療を受け入れてくれた。

 ベネディック様が不承不承ならも婚姻を認めたのは、弟を救いたかったのが大きい。現在、アルフ様の両足と左腕が樹木化して、青葉が生い茂っている。
 樹木化した部分を取り除くため、特別なハーブ調合の塗り薬と薬を処方して、毎日試して貰った。

「お義姉様。僕の足と腕は治る?」
「もちろんですわ。でも両足はずっと歩いていなかったでしょう。だから完治してもリハビリが必要になるのは、覚えておいてくださいね」

 十歳のアルフ様は「歩けるんだね!」と目を輝かせた。傍で治療を監視しているベネディック様は、胡乱な目をしていたけれど気にしない。結果は後からやってくる。
 それを教えて下ったのは、あの方なのだから。

 ***

 公爵家の廊下はいつもピカピカで、華美すぎないカーテンや絨毯は、とても上品な印象を与える。

「フェリーネ」
「!」

 診療が終わって部屋に戻る途中、珍しくベネディック様に呼び止められた。これから遅い夕食だったので、お腹が鳴りませんように、と思いつつ振り返る。

「はい?」

 ベネディック様は顔の半分を包帯で覆っているが、私を見る目は相変わらず鋭い。

「あまり弟に期待させるような言葉をかけないでほしい」
「何故ですの?」
「もし治らなかった時、酷く落ち込むだろう。そんなことも、わからないのか?」

 人の心が分からないのかと言うベネディック様に、私は口元を綻ばせた。
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