【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
 ***

「フェリーネ」
「んん? んー、あと……五時間」
「今日は国王陛下が遊行する日だぞ」
「ふぁああ! 起きます」

 慌てて起き上がるとベネディック様は着替えが終わっていて、くすりと笑った。「おはよう」と、ベネディック様は頬にキスをする。
 私もキスを返すのだけれど、頬にしようとしても、いつも唇にずらされてしまう。朝から唇にキスは……!
 啄むキスで終われば良いのだけれど、ベネディック様はスイッチが入るのか何度も唇に触れて朝から甘々な空気になる。最初の辛辣で硬派なイメージは欠片もなくて、今は愛妻家として有名らしい。

 あの後、スサンナ様は厳格な修道院行きが決定し、侯爵家は爵位を取り上げられ、庶民に。この辺りは国王陛下(セリオ)が手を回したのだろう。ベネディック様も何かしてそうだけれど、教えてくれない。
 屋敷内の使用人たちも様変わりして、居心地の悪さはなくなった。

 そしてセリオのおかげで、私はただのフェリーネになった。魔力も微力程度で、体が半透明になることもない。ただの人で、寿命も同じだという。もっとも肉体の成長と老化はしないかもしれないとか。それでもよかった。ベネディック様と同じ時を歩んで、終わりを迎えられることが嬉しい。

 結局、私はエルベルト様を含めた七人の魔導師に恩を返せたのかしら?
 そう思っていると、カーテンが揺れて薔薇の香りが鼻孔を擽った。ふと七人の魔導師が悪戯したように、青い薔薇の花びらがほんの僅かな時間だけ白銀と金に変わって、空に舞う。
 夢の続きみたいだと口元が緩んだ。
 そうね、きっと彼らは悠久の時間であっても「楽しかった」と言ってくれる。そういう人たちだった。私が役割を終えたことを喜んでいる……って、傲慢にも思っても良いよね?

 それは前兆。
 この日、国王陛下の遊行に乗じて訪れた王侯貴族、商人、観光客が集まるのだが、奇しくも同時期に転生した七人の魔導師が一同に集う。
 それによって一悶着あるのは、また別のお話。


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