【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
「ですが完治すると分かっているのに、どうして後ろ向きな言葉を掛けなければならないのですか? 病は気からとも言うように治そうとしている人を鼓舞して、一緒に闘病を支えるのは薬師として何が問題なのでしょう?」
「だが、あの子はまだ十歳だ」
「関係ありませんわ。私の患者様である以上、私は薬師として誠心誠意奇病と向き合って、治ると分かっている以上、事実を伝えております。生きる希望を本人に持たせることが、今回は一番の特効薬でもありますわ」
他でもないあの方が、死にかけていた私を救おうとしてくれた。まさかあの方が言った言葉を、私が言うことになるなんて。なんて奇妙な縁なのかしら。
意味がなかった私に、あの方はたくさんの意味をくれた。そして今も──。
「私のことを信用しなくても、疑ったままでも構いません。でも薬は毎日しっかりと飲んで、塗り薬を朝昼晩と塗ってください」
「ふん。……いいか、二年の間に毒を盛って私を殺そうとしても無駄だからな」
「そんなことはしませんわ。心配なら誓約書を書きますけれど」
どの口が、と忌々しそうな顔で「では手配しよう」と吐き捨てて去って行った。あの方はいつだって穏やかで、余裕のある方だったわ。
きっと病で心も体も蝕まれて、余裕がないのでしょうね。……それに何度か毒殺あるいは、恋人や婚約者に裏切られたとか。国王陛下も言っていたような……。
心配しなくても私は……あの方に返しきれなかった恩を返しに、来ただけですから。それ以上を望むことなどありませんもの。
それにどう足掻いても二年間だけしか、ここに居られないのだから。
廊下の窓を見ると、淡い若葉色の長い髪、金の瞳、白い肌の自分の姿が映し出されるのを見て、ホッとした。まだ、大丈夫。