【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
 ***

 その日、教会には大勢の領民が集まった。きっと流行病の時に、しっかり対応したのが良かったのだと思う。

 ベネディック様の姿も見かけた。たぶん領主として私の監視と、アルフ様の付き添いね。
 ベネディック様の顔は完治しつつある。念のため包帯をしているけれど、やっぱり綺麗な顔だわ。

「それでは夫人」
「はい。……本日はお集まりいただき、ありがとうございます」

 大勢の人の前で話すのは、いつも緊張してしまう。それでも私の知る事実をしっかりと伝えようと歴史を紐解く。

「集落が崩壊する際に、聖樹を守るためご先祖(エルフ族)たちは《世界樹ノ種》を自らの体内に封印して、新天地を目指したのです。しかし代替わりをしていくに連れて、体内に封印していた種の解除方法を忘れてしまったため、世界樹ノ種は体内で生長し、この奇病が発現しました」
「一度発病したら死ぬと聞いていましたが、違うのですか?」
「はい。体内に封印していた種を取り出すためには、いくつものハーブで作った薬を飲む必要があります。本来は一人前になった儀式の際にスープあるいは、お酒を飲む風習があったのですが、それが形骸化して『花酒祭』だけが残ったのでしょう」
「あの祭が?」
「そう言えばうちの婆様が、途絶えてはいけないとか苦い酒を造っていたような?」
「もしかしてアレか?」
「奥歯と同じくらいの白銀の欠片が皮膚あるいは口から出てきたら、それは《世界樹ノ忿懣》です。治療費の代わりに、その種を回収させて頂きます。もし不当に所持をしていたら治療費全額と種一つ分の金額を請求しますので、注意してくださいね」

 薬の処方と容量は個人差があるので、一人ずつ症状にあったものを出す説明し、診察していく。
 全員終わった頃には、どっぷりと日が暮れて夜になりつつあった。

「ふう……」
「終わったか?」
「ひゃい!?」
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