【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
振り返ると、ベネディック様が立っていた。てっきり帰って行ったと思っていたら、待っていてくださった?
ベネディック様は自分の後首に手を当てつつ、気まずそうに言葉を続ける。
「……患者の中で、深刻な者はいるか?」
「(あ、領民のことを心配して残っていたのね!)いえ。皆様には毎日来訪して、薬を目の前で飲んで貰うように話しています」
「そうか」
「はい」
会話が終わっても、ベネディック様はその場に立ったままだ。まだ何か気になることがあるのかしら?
「……以前、君を罵倒したことを謝罪したい」
「え」
深々と頭を下げるベネディック様に、困惑して固まってしまう。今までの高圧的な態度は消え、真摯に謝罪するその姿勢に好感が持てた。
やっぱりあの方の魂は、転生しても根っこは変わらないのね。
「頭を上げてください。ベネディック様も、奇病のせいで追い詰められていたのですから。人間余裕がないと、視野が狭くなりますし」
「君は天使か女神か?」
「ふふっ、違います。でも他の誰でもないベネディック様に言われると嬉しいです」
「……改めて謝罪を。フェリーネ、すまなかった。救いの手を差し伸べようとした者に対して、許すべき行為ではなかった」
真面目なところも変わらない。最初は嫌われていて──ううん、警戒されていたけれど、信じて貰えたのなら、やっぱり今世でも仲良くなりたい。
前世と家族同然のようでありたいと──だから、無理を言って夫婦を提案したのだ。一度で良いので、形だけでも家族を持ってみたかった。私の我儘。それだけで充分だったのに、どんどん欲張りになってしまう。
「良いのです。でも契約満了まで仲良くできたら嬉しいです」
「──っ、そう……だな」
「はい。これから改めてよろしくお願いします」
「ああ」
ベネディック様は何処か複雑な顔をしていた。何だか新鮮だわ。
この日から少しずつ、ベネディック様が寄り添ってくれるようになった。これは大きな進歩だと思う。
季節は巡る。この国は湿度が高くないので、湿気と無縁のようだった。長い春と秋、冬が二、三カ月と短い。
冬は暖炉から離れたくなくて、できるだけ部屋を暖かくしていたら、ベネディック様が室内用の毛布カーディガンを贈ってくれた。
「こんな手触りも良いものを頂いてよいのですか?」
「ああ。……それで、これも用意したのだが……受け取って貰えるだろうか」
青い薔薇の花束だった。この領地では特産品になっている特別な花。