ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
モンテベルダ伯爵令嬢とグロスター伯爵令嬢は、私と同じ席についても良いかと尋ねた。リリーシュはそれに頷き、三人は同じテーブルでアフタヌーンティーを嗜むことになった。
初めは他愛ない会話を交わしていたが、リリーシュが比較的好意的であると判断した二人は、中々に突っ込んだ質問を彼女に投げかけはじめた。
「私達は十七歳で、この間社交界デビューを済ませたばかりなんです」
「まぁ、それは素敵ですね」
本日私達が招かれた屋敷の侯爵夫人は、紅茶に目がないことで有名だった。なるほど、確かにとても美味しいとリリーシュは素直に感心する。
だけど、添えられているお菓子があまり美味しくない。せっかくの美味しい紅茶なのに残念だと、リリーシュはこっそり悲しんだ。
二人が話してくれる社交界の話は、まだ体験したことのないリリーシュには新鮮だった。博識のエリオットに聞いても、彼はこの話題については曖昧にお茶を濁すばかりだったから。
彼も私と同じくまだデビューしていないから知らないのかもしれないと、リリーシュは特に気に留めなかった。
「ところでアンテヴェルディ嬢は、もう婚約者をお決めになられているのですか?」
「いえ、私にはまだそんなお話はありません」
「アンテヴェルディ公爵家ともなれば、懇意にしたいと思う貴族は大勢居るでしょうに。もちろん、私達もその内の一人ですし」
「どうでしょうか。私は、そういった話には疎いので」
「アンテヴェルディ嬢は、ウィンシス公爵家のご子息と親しい間柄だと耳にしたことがあるのですが」
モンテベルダ伯爵令嬢にそう言われて、リリーシュは頷く。この類の質問をされるのは初めてではなかったので、特に慌てることもなかった。
「私と彼は幼馴染なんです。家族ぐるみでのお付き合いがあるので、自然と一緒に居る時間も長いというだけです」
「では、婚約などの具体的な話は」
「出ておりません」
「そうなんですの。私達てっきり、お二人は将来ご結婚される仲だとばかり思っていました」
モンテベルダ伯爵令嬢が、グロスター伯爵令嬢に視線を向ける。彼女達は何やら眴のようなものをし合うと、リリーシュを見てニッコリと微笑んだ。
(あぁ、やっぱりここの紅茶は美味しい。だからこそ、お菓子の残念さが際立ってしまうのよね。本当に勿体ないわ)
「アンテヴェルディ嬢?」
紅茶のカップを手に取り、それをただジッと見つめるだけの彼女に、二人は戸惑いを見せる。一方、ご令嬢達の水面下での争いなどには興味がないリリーシュは、お菓子が美味しくないことをただただ残念がっていた。
「ロベルナ嬢の婚約者様は、とっても素敵なんですよ。紳士的で、社交界でも人気のある方なんです」
「嫌だわアンナ嬢、アンテヴェルディ嬢の前でそんな恥ずかしいこと」
「あら、だけど本当のことじゃない。私も貴女のように、自分がお慕いした方と結婚したいわ」
どうやら二人は、仲が良いらしい。ちょくちょくリリーシュには分からない話を展開させているが、彼女は特に気にしていなかった。
(彼女達も、大変ね)
グロスター伯爵令嬢には、素敵な婚約者が居るらしい。ということはおそらく、モンテベルダ伯爵令嬢の方がエリオットを気に入っているのだろう。だから、私に探りを入れたかったというわけか。
リリーシュは、結婚はあくまで家同士がするものだと思っていた。我がアンテヴェルディ家の時代遅れな考え方は好きではないが、それはそれこれはこれ。
そもそも恋愛というものすら良く分かっていないのだから、恋愛結婚に憧れもない。
幼い頃は、エリオットと結婚できたらどんなに幸せだろうと思わなかったこともないが、今は自分がウィンシス家に嫁ぐなんて畏れ多いという感情の方が先に立つ。
目立ちたがり屋の母が居るから難しいかもしれないけれど、できればアンテヴェルディ家より格下の貴族の家へ嫁ぎたいと、リリーシュは思っていた。
(もっと自由で、伸び伸びした生活がしたい)
綺麗な飴色の紅茶を見つめながら、彼女は何故かそこにエリオットの笑顔を思い浮かべているのだった。
初めは他愛ない会話を交わしていたが、リリーシュが比較的好意的であると判断した二人は、中々に突っ込んだ質問を彼女に投げかけはじめた。
「私達は十七歳で、この間社交界デビューを済ませたばかりなんです」
「まぁ、それは素敵ですね」
本日私達が招かれた屋敷の侯爵夫人は、紅茶に目がないことで有名だった。なるほど、確かにとても美味しいとリリーシュは素直に感心する。
だけど、添えられているお菓子があまり美味しくない。せっかくの美味しい紅茶なのに残念だと、リリーシュはこっそり悲しんだ。
二人が話してくれる社交界の話は、まだ体験したことのないリリーシュには新鮮だった。博識のエリオットに聞いても、彼はこの話題については曖昧にお茶を濁すばかりだったから。
彼も私と同じくまだデビューしていないから知らないのかもしれないと、リリーシュは特に気に留めなかった。
「ところでアンテヴェルディ嬢は、もう婚約者をお決めになられているのですか?」
「いえ、私にはまだそんなお話はありません」
「アンテヴェルディ公爵家ともなれば、懇意にしたいと思う貴族は大勢居るでしょうに。もちろん、私達もその内の一人ですし」
「どうでしょうか。私は、そういった話には疎いので」
「アンテヴェルディ嬢は、ウィンシス公爵家のご子息と親しい間柄だと耳にしたことがあるのですが」
モンテベルダ伯爵令嬢にそう言われて、リリーシュは頷く。この類の質問をされるのは初めてではなかったので、特に慌てることもなかった。
「私と彼は幼馴染なんです。家族ぐるみでのお付き合いがあるので、自然と一緒に居る時間も長いというだけです」
「では、婚約などの具体的な話は」
「出ておりません」
「そうなんですの。私達てっきり、お二人は将来ご結婚される仲だとばかり思っていました」
モンテベルダ伯爵令嬢が、グロスター伯爵令嬢に視線を向ける。彼女達は何やら眴のようなものをし合うと、リリーシュを見てニッコリと微笑んだ。
(あぁ、やっぱりここの紅茶は美味しい。だからこそ、お菓子の残念さが際立ってしまうのよね。本当に勿体ないわ)
「アンテヴェルディ嬢?」
紅茶のカップを手に取り、それをただジッと見つめるだけの彼女に、二人は戸惑いを見せる。一方、ご令嬢達の水面下での争いなどには興味がないリリーシュは、お菓子が美味しくないことをただただ残念がっていた。
「ロベルナ嬢の婚約者様は、とっても素敵なんですよ。紳士的で、社交界でも人気のある方なんです」
「嫌だわアンナ嬢、アンテヴェルディ嬢の前でそんな恥ずかしいこと」
「あら、だけど本当のことじゃない。私も貴女のように、自分がお慕いした方と結婚したいわ」
どうやら二人は、仲が良いらしい。ちょくちょくリリーシュには分からない話を展開させているが、彼女は特に気にしていなかった。
(彼女達も、大変ね)
グロスター伯爵令嬢には、素敵な婚約者が居るらしい。ということはおそらく、モンテベルダ伯爵令嬢の方がエリオットを気に入っているのだろう。だから、私に探りを入れたかったというわけか。
リリーシュは、結婚はあくまで家同士がするものだと思っていた。我がアンテヴェルディ家の時代遅れな考え方は好きではないが、それはそれこれはこれ。
そもそも恋愛というものすら良く分かっていないのだから、恋愛結婚に憧れもない。
幼い頃は、エリオットと結婚できたらどんなに幸せだろうと思わなかったこともないが、今は自分がウィンシス家に嫁ぐなんて畏れ多いという感情の方が先に立つ。
目立ちたがり屋の母が居るから難しいかもしれないけれど、できればアンテヴェルディ家より格下の貴族の家へ嫁ぎたいと、リリーシュは思っていた。
(もっと自由で、伸び伸びした生活がしたい)
綺麗な飴色の紅茶を見つめながら、彼女は何故かそこにエリオットの笑顔を思い浮かべているのだった。