ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
(どうしてルシフォール様がここに)
リリーシュは動揺を隠せないまま、しかし隣を見る事もできずヘーゼルアッシュの瞳を揺らす。
ウィンシス夫妻、そしてエリオットに会えた事をリリーシュは心の底から嬉しく思った。もう会えなくても仕方ないと諦めていたつもりだったが、懐かしさに泣いてしまいそうになった。
もしかするとエリオットは勝手な事をした自分を嫌っているかもしれないと、内心では不安に思っていた。しかし彼は昔とちっとも変わらず、優しい瞳でリリーシュを見つめてくれた。流石に甘い言葉を向けられる事はなかったが、そんな事はどうだっていい。
(エリオット、会いたかった)
大切な大切な幼馴染。優しくて、意地悪で、そしてまた優しい。どちらの彼も、リリーシュは大好きだ。
話しているとあの頃の楽しかった日々が甦り、そして戻りたいという感情が彼女の中に巻き起こる。両親と共にあの屋敷に住み、遊びに来てくれたエリオットと笑い合う。平凡な、だけどかけがえのない日常。
もしも時を元に戻せるのならと、リリーシュは自分らしくもない事を考えてしまった。
彼らと話している時間はとても楽しく、もっとこうしていたいとも思う。
しかし不思議な事にリリーシュは、時が経てば経つほどにエリオットではなく別の人物を頭に思い浮かべていたのだ。
まるで射殺すようにこちらを見つめる、アイスブルーの瞳。不機嫌そうな声と横柄な態度。事あるごとにリリーシュを見下し、こちらの気持ちなんてお構いなし。そんな碌でもない人なのに、何故か嫌いになれない。
リリーシュはこの王宮に来てからずっと、ルシフォールをエリオットに重ねていた。大切な幼馴染に会えない寂しさを、そうして紛らわそうとしていた。
しかしエリオットと再会した今、彼とは全然似ていないとリリーシュは思う。
ルシフォールを見ては、そこにエリオットを重ねていた。それなのに何故か、逆の事が出来ないのだ。エリオットを見ても、ちっとも似ていると思えない。
それどころかますます強く彼を思い出し、あの冷たい瞳を懐かしいとすら感じてしまう。
(あの方は私がこうしている今も、一人執務に追われているのかしら)
好きだと言われ、リリーシュは答える事が出来なかった。今もまだ、答えは出ないままだ。
エリオットに会えた事は、とても嬉しい。だけど今は何故か、自分の居場所がここではないと思う。
彼に寂しい思いをさせてはいないか、それが気になってそわそわとしてしまう。
(私は自分で決めてここにやって来たの。愛のない政略結婚でも構わないと)
そう、愛のない政略結婚。それは絶対に覆る事はない筈だったのに。
(…とても、私らしくないわ)
こんなにも心が乱れる思いは初めてだった。
今はただ流れに身を任せ、オフィーリアが用意してくれたこの場を存分に満喫すればいい。
そう、思っていたのに。
気がつくとリリーシュは、席を立っていた。
そしてそんなタイミングでルシフォールがやって来たものだから、リリーシュはどうしたらいいのか分からなかった。
リリーシュは動揺を隠せないまま、しかし隣を見る事もできずヘーゼルアッシュの瞳を揺らす。
ウィンシス夫妻、そしてエリオットに会えた事をリリーシュは心の底から嬉しく思った。もう会えなくても仕方ないと諦めていたつもりだったが、懐かしさに泣いてしまいそうになった。
もしかするとエリオットは勝手な事をした自分を嫌っているかもしれないと、内心では不安に思っていた。しかし彼は昔とちっとも変わらず、優しい瞳でリリーシュを見つめてくれた。流石に甘い言葉を向けられる事はなかったが、そんな事はどうだっていい。
(エリオット、会いたかった)
大切な大切な幼馴染。優しくて、意地悪で、そしてまた優しい。どちらの彼も、リリーシュは大好きだ。
話しているとあの頃の楽しかった日々が甦り、そして戻りたいという感情が彼女の中に巻き起こる。両親と共にあの屋敷に住み、遊びに来てくれたエリオットと笑い合う。平凡な、だけどかけがえのない日常。
もしも時を元に戻せるのならと、リリーシュは自分らしくもない事を考えてしまった。
彼らと話している時間はとても楽しく、もっとこうしていたいとも思う。
しかし不思議な事にリリーシュは、時が経てば経つほどにエリオットではなく別の人物を頭に思い浮かべていたのだ。
まるで射殺すようにこちらを見つめる、アイスブルーの瞳。不機嫌そうな声と横柄な態度。事あるごとにリリーシュを見下し、こちらの気持ちなんてお構いなし。そんな碌でもない人なのに、何故か嫌いになれない。
リリーシュはこの王宮に来てからずっと、ルシフォールをエリオットに重ねていた。大切な幼馴染に会えない寂しさを、そうして紛らわそうとしていた。
しかしエリオットと再会した今、彼とは全然似ていないとリリーシュは思う。
ルシフォールを見ては、そこにエリオットを重ねていた。それなのに何故か、逆の事が出来ないのだ。エリオットを見ても、ちっとも似ていると思えない。
それどころかますます強く彼を思い出し、あの冷たい瞳を懐かしいとすら感じてしまう。
(あの方は私がこうしている今も、一人執務に追われているのかしら)
好きだと言われ、リリーシュは答える事が出来なかった。今もまだ、答えは出ないままだ。
エリオットに会えた事は、とても嬉しい。だけど今は何故か、自分の居場所がここではないと思う。
彼に寂しい思いをさせてはいないか、それが気になってそわそわとしてしまう。
(私は自分で決めてここにやって来たの。愛のない政略結婚でも構わないと)
そう、愛のない政略結婚。それは絶対に覆る事はない筈だったのに。
(…とても、私らしくないわ)
こんなにも心が乱れる思いは初めてだった。
今はただ流れに身を任せ、オフィーリアが用意してくれたこの場を存分に満喫すればいい。
そう、思っていたのに。
気がつくとリリーシュは、席を立っていた。
そしてそんなタイミングでルシフォールがやって来たものだから、リリーシュはどうしたらいいのか分からなかった。