ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
それから数日が経ったが、ルシフォールは寝不足に悩まされた。扉の向こうを意識し過ぎて、部屋は隣にしない方が良かったのかもしれないと思う程に、彼は疲弊していた。
カタンという微かな物音にさえ反応し、リリーシュが今何をしているのだろうと想像しかけては、自分の頬をつねった。そして「俺は一体何をやっているんだ」と自己嫌悪に陥る。
と昼夜問わずこの繰り返しで、流石のルシフォールも疲れを顔に出さずにはいられなかった。
「せっかく君が成長したと喜んだのに、何だか面白い事になっているみたいだね」
自然と執務室に居る時間が長くなり、そこにユリシスがからかいに来る。しかし今のルシフォールには、それに相手をする気力もなかった。
「こんなに執務室に居たら、部屋を隣にした意味がないよ」
「…分かってる」
ルシフォールだって何も好き好んで執務室に居る時間を増やしている訳ではない。たとえ姿は見えずとも、リリーシュが隣に居るというだけでルシフォールは幸せだった。それはもう、自分でも驚く程に。
しかし、人間とは所詮愚かな生き物である。傍に居られればそれで良いと思っていた筈なのに、どうしても欲が出てしまうのだ。
姿が見たい、声が聞きたい、名前を呼んでほしい、触れたい。
止まる事を知らない欲求が次から次へと溢れ出し、気を抜けばあの扉を開けてしまおうかという衝動に駆られる。
せっかくリリーシュと会える夕食の時間でさえ、本音が漏れ出てしまわぬようつい表情が堅くなってしまう。以前の様に心配を掛けたくはないのに、感情がコントロール出来ない。
彼女を好きだと自覚してからの自分は、本当に情けない。その証拠に、周囲からも遠巻きではあるがひそひそと囁かれているのが分かる。自身の評判が今更どうなろうとどうでも良いが、リリーシュまで悪く言われる事は避けたいとルシフォールは思っていた。
その為には、もっと気を引き締めなければ。続き扉の一つや二つで動揺していてどうするんだ。
「僕は今のルシフォール、好きだけどなぁ。良いじゃないか、無理にかっこつけなくたって」
「…煩い。俺にも色々あるんだ」
「色々、ねぇ」
まさか、このままでは彼女の部屋に勝手に入ってしまいそうだ、などとは口が裂けても言えない。ルシフォールは、とにかく執務を詰め込み気を紛らわそうと、急ぎでもない書類にペンを走らせ続けたのだった。
今のルシフォールに、リリーシュを気遣う余裕はない。そうこうしている内に、彼にとっては大変宜しくない運命の波はすぐそこまで近付いていたのだった。
カタンという微かな物音にさえ反応し、リリーシュが今何をしているのだろうと想像しかけては、自分の頬をつねった。そして「俺は一体何をやっているんだ」と自己嫌悪に陥る。
と昼夜問わずこの繰り返しで、流石のルシフォールも疲れを顔に出さずにはいられなかった。
「せっかく君が成長したと喜んだのに、何だか面白い事になっているみたいだね」
自然と執務室に居る時間が長くなり、そこにユリシスがからかいに来る。しかし今のルシフォールには、それに相手をする気力もなかった。
「こんなに執務室に居たら、部屋を隣にした意味がないよ」
「…分かってる」
ルシフォールだって何も好き好んで執務室に居る時間を増やしている訳ではない。たとえ姿は見えずとも、リリーシュが隣に居るというだけでルシフォールは幸せだった。それはもう、自分でも驚く程に。
しかし、人間とは所詮愚かな生き物である。傍に居られればそれで良いと思っていた筈なのに、どうしても欲が出てしまうのだ。
姿が見たい、声が聞きたい、名前を呼んでほしい、触れたい。
止まる事を知らない欲求が次から次へと溢れ出し、気を抜けばあの扉を開けてしまおうかという衝動に駆られる。
せっかくリリーシュと会える夕食の時間でさえ、本音が漏れ出てしまわぬようつい表情が堅くなってしまう。以前の様に心配を掛けたくはないのに、感情がコントロール出来ない。
彼女を好きだと自覚してからの自分は、本当に情けない。その証拠に、周囲からも遠巻きではあるがひそひそと囁かれているのが分かる。自身の評判が今更どうなろうとどうでも良いが、リリーシュまで悪く言われる事は避けたいとルシフォールは思っていた。
その為には、もっと気を引き締めなければ。続き扉の一つや二つで動揺していてどうするんだ。
「僕は今のルシフォール、好きだけどなぁ。良いじゃないか、無理にかっこつけなくたって」
「…煩い。俺にも色々あるんだ」
「色々、ねぇ」
まさか、このままでは彼女の部屋に勝手に入ってしまいそうだ、などとは口が裂けても言えない。ルシフォールは、とにかく執務を詰め込み気を紛らわそうと、急ぎでもない書類にペンを走らせ続けたのだった。
今のルシフォールに、リリーシュを気遣う余裕はない。そうこうしている内に、彼にとっては大変宜しくない運命の波はすぐそこまで近付いていたのだった。