ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
ここ数日、というより自分がこちらの宮殿へやってきてからずっとルシフォールの態度がおかしい気がすると、リリーシュは思っていた。
そわそわと落ち着かない様子でアイスブルーの瞳をあちこち彷徨わせ、リリーシュが話し掛けても上の空。ぱちりと目が合えば、瞬時に逸らされる。腹を立てている様にも見えないし、体調が悪いのかと聞いても首を横に振るだけ。
以前の様に、何か伝えたい事でもあるのかもしれない。そう考えたリリーシュは特に追及する事もなく、自然に振る舞う様努めていた。
(意識してしまうのは、私も同じなのだから)
ルシフォール程ではないにしろ、リリーシュもあの扉の向こうを意識せずには居られない。自身が紅茶を飲んでいる時、ソファーで寛いでいる時、ベッドの中で眠りにつく時。ルシフォールは何をしているのだろうと、つい考えてしまう様になった。
(これが気持ちの変化なのか、部屋の所為なのか分からないわ)
例えばもし隣の部屋に居るのがエリオットならば、自分はこんな風になったのだろうかと考える。ルシフォールだからなのか、ただ男性慣れしていないだけなのか、リリーシュには判断がつかなかった。
とまぁそんな訳で、特にルシフォールに何か言う事はしないでおこうと思っていたリリーシュだったが、今目の前で黙々と食事をしているルシフォールは、昨日までとは明らかに様子が違っていた。
一見不機嫌そうに見えるけれど、ピリピリとした雰囲気はない。難しい顔をしたまま、もそもそと料理を口に運んでいる。
「あの…ルシフォール様。何か嫌な事でもありましたか?」
この様子には、流石のリリーシュも声を掛けずにはいられなかった。彼女の問い掛けに、ルシフォールはピクリと反応する。エリオットの事を、リリーシュには言いたくないと思ってしまった。
自分とあの男を並べて、それでも彼女が自分を選んでくれるだろうと、ルシフォールは思えない。自信など全くなかったのだ。
「いや。何でもない」
「…ですが」
「お前が気にする事ではない」
ルシフォールはぶっきらぼうにそう言い放った後、しまったと後悔した。傷付けてしまったのではないだろうかとリリーシュに視線を移したルシフォールは、彼女の表情を見て目を見開いた。
「…むぅ」
思いきり、むくれている。頬袋にどんぐりを貯めたリスの様に両頬は膨らみ、ほんのり紅く色付いている。瞳はキッと吊り上がり、唇は尖っている。
初めて見るリリーシュの表情にルシフォールは固まる。そして思った。
可愛い、と。
…いや、そんな場合ではない。あのリリーシュが自分に対して腹を立てている。決して喜んで良い事ではないというのに。
つい緩んでしまう頬を隠す様に、ルシフォールはふいっと横を向いた。
そわそわと落ち着かない様子でアイスブルーの瞳をあちこち彷徨わせ、リリーシュが話し掛けても上の空。ぱちりと目が合えば、瞬時に逸らされる。腹を立てている様にも見えないし、体調が悪いのかと聞いても首を横に振るだけ。
以前の様に、何か伝えたい事でもあるのかもしれない。そう考えたリリーシュは特に追及する事もなく、自然に振る舞う様努めていた。
(意識してしまうのは、私も同じなのだから)
ルシフォール程ではないにしろ、リリーシュもあの扉の向こうを意識せずには居られない。自身が紅茶を飲んでいる時、ソファーで寛いでいる時、ベッドの中で眠りにつく時。ルシフォールは何をしているのだろうと、つい考えてしまう様になった。
(これが気持ちの変化なのか、部屋の所為なのか分からないわ)
例えばもし隣の部屋に居るのがエリオットならば、自分はこんな風になったのだろうかと考える。ルシフォールだからなのか、ただ男性慣れしていないだけなのか、リリーシュには判断がつかなかった。
とまぁそんな訳で、特にルシフォールに何か言う事はしないでおこうと思っていたリリーシュだったが、今目の前で黙々と食事をしているルシフォールは、昨日までとは明らかに様子が違っていた。
一見不機嫌そうに見えるけれど、ピリピリとした雰囲気はない。難しい顔をしたまま、もそもそと料理を口に運んでいる。
「あの…ルシフォール様。何か嫌な事でもありましたか?」
この様子には、流石のリリーシュも声を掛けずにはいられなかった。彼女の問い掛けに、ルシフォールはピクリと反応する。エリオットの事を、リリーシュには言いたくないと思ってしまった。
自分とあの男を並べて、それでも彼女が自分を選んでくれるだろうと、ルシフォールは思えない。自信など全くなかったのだ。
「いや。何でもない」
「…ですが」
「お前が気にする事ではない」
ルシフォールはぶっきらぼうにそう言い放った後、しまったと後悔した。傷付けてしまったのではないだろうかとリリーシュに視線を移したルシフォールは、彼女の表情を見て目を見開いた。
「…むぅ」
思いきり、むくれている。頬袋にどんぐりを貯めたリスの様に両頬は膨らみ、ほんのり紅く色付いている。瞳はキッと吊り上がり、唇は尖っている。
初めて見るリリーシュの表情にルシフォールは固まる。そして思った。
可愛い、と。
…いや、そんな場合ではない。あのリリーシュが自分に対して腹を立てている。決して喜んで良い事ではないというのに。
つい緩んでしまう頬を隠す様に、ルシフォールはふいっと横を向いた。