ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
(エリオット、何だか元気がないわ)
リリーシュは、ちらりとエリオットに視線をやる。未だ剣を握り締めたまま立ち尽くしている様子の彼に、何かあったのだろうかと心配になる。
しかし、ルシフォールの事を考えると自分から話しかけるわけにもいかない。
「リリーシュ」
「はい、何でしょう」
「…いや」
リリーシュがエリオットの方を見ている事に気が付いたルシフォールの胸は、ぐぐっと苦しく締めつけられる。本当は、二人を会わせたくなどなかった。
心が狭いと言われようが、嫌なものは嫌だ。
しかしルシフォールは、先日の夕食会でリリーシュから言われた事を思い出す。
彼女は、醜い嫉妬に塗れた自分を受け入れてくれた。あの言葉を、笑顔を、信じたいと思う。
「俺はユリシスと話してくる。俺に気を遣わず、エリオット・ウィンシスと話してこい」
「ですが、ルシフォール様」
「俺は大丈夫だから」
ルシフォールは頬を緩ませたが、それはリリーシュの知っている彼の笑顔ではなかった。
(私の気持ちを優先してくれているのね)
エリオットに妬いてしまうと言っていたルシフォールが、今は話して来いと言う。それはひとえに、リリーシュがエリオットの様子を気にしている事に気が付いたから。
自分の為に感情を押し殺しているルシフォールを見て、リリーシュは堪らない気持ちになった。
(私、ルシフォール様を振り回してしまっている)
未だに返事が出来ないでいる事も、エリオットの事も、全てが彼の心の負担となっている。それでも我慢しているのは、リリーシュの為。
トクトクと優しく高鳴る胸を押さえ、リリーシュはルシフォールを見上げた。揺れ動くアイスブルーの瞳を捕まえたくて、そっと彼の腕に手を伸ばす。
ふ、とリリーシュの指先が触れただけでルシフォールの肩はピクリと反応した。
「ありがとうございます、ルシフォール様」
「…いや」
「あら、腕が熱いです」
「…剣を振るった所為だ」
「ふふっ。そうですか」
照れくさそうにふいと横を向くルシフォールを見て、リリーシュはくすくすと笑う。その笑顔が可愛らしくて、ルシフォールは半ば無意識にリリーシュの頭をぽんと撫でた。
「…では、また後で」
くるりと身を翻し、ルシフォールはリリーシュの前から去っていく。その背中を見つめながら、リリーシュは胸の奥がぎゅうっと締めつけられる感覚を味わっていた。
しかし、せっかく彼が配慮してくれたのだ。その気持ちを無下にしてはいけないと、リリーシュはルルエと共にエリオットの元へと向かった。
「エリオット」
「リリーシュ」
「お疲れ様」
「ありがとう」
リリーシュに気付いたエリオットは、たちまち蕩ける様な笑みを見せる。いつものエリオットに戻ったと、リリーシュはほっと胸を撫で下ろした。
「さっきは、何だか元気がない様に見えたけれど」
「…あぁ。それは」
ーー君がルシフォール殿下の元へ嬉しそうに駆けていったのが、悲しかったんだ
エリオットはその言葉を飲み込み、頬を緩ませる。
「ただ悔しかっただけだよ。ルシフォール殿下があまりにも強くて」
「まぁ、そうだったの。エリオットも男の子なのね」
「ははっ、おもしろい言い方をするなぁリリーシュは」
「ふふっ」
リリーシュにとっては幼馴染との他愛ない会話。しかしそれを横目で見ているルシフォールにとっては、胸が焼けつきそうな程堪らない気分になる。
「おやおや。彼女は意外と罪作りなレディみたいだね」
楽しそうにそう口にしたユリシスの足を、ルシフォールは靴の踵で思いきり踏んづけた。
リリーシュは、ちらりとエリオットに視線をやる。未だ剣を握り締めたまま立ち尽くしている様子の彼に、何かあったのだろうかと心配になる。
しかし、ルシフォールの事を考えると自分から話しかけるわけにもいかない。
「リリーシュ」
「はい、何でしょう」
「…いや」
リリーシュがエリオットの方を見ている事に気が付いたルシフォールの胸は、ぐぐっと苦しく締めつけられる。本当は、二人を会わせたくなどなかった。
心が狭いと言われようが、嫌なものは嫌だ。
しかしルシフォールは、先日の夕食会でリリーシュから言われた事を思い出す。
彼女は、醜い嫉妬に塗れた自分を受け入れてくれた。あの言葉を、笑顔を、信じたいと思う。
「俺はユリシスと話してくる。俺に気を遣わず、エリオット・ウィンシスと話してこい」
「ですが、ルシフォール様」
「俺は大丈夫だから」
ルシフォールは頬を緩ませたが、それはリリーシュの知っている彼の笑顔ではなかった。
(私の気持ちを優先してくれているのね)
エリオットに妬いてしまうと言っていたルシフォールが、今は話して来いと言う。それはひとえに、リリーシュがエリオットの様子を気にしている事に気が付いたから。
自分の為に感情を押し殺しているルシフォールを見て、リリーシュは堪らない気持ちになった。
(私、ルシフォール様を振り回してしまっている)
未だに返事が出来ないでいる事も、エリオットの事も、全てが彼の心の負担となっている。それでも我慢しているのは、リリーシュの為。
トクトクと優しく高鳴る胸を押さえ、リリーシュはルシフォールを見上げた。揺れ動くアイスブルーの瞳を捕まえたくて、そっと彼の腕に手を伸ばす。
ふ、とリリーシュの指先が触れただけでルシフォールの肩はピクリと反応した。
「ありがとうございます、ルシフォール様」
「…いや」
「あら、腕が熱いです」
「…剣を振るった所為だ」
「ふふっ。そうですか」
照れくさそうにふいと横を向くルシフォールを見て、リリーシュはくすくすと笑う。その笑顔が可愛らしくて、ルシフォールは半ば無意識にリリーシュの頭をぽんと撫でた。
「…では、また後で」
くるりと身を翻し、ルシフォールはリリーシュの前から去っていく。その背中を見つめながら、リリーシュは胸の奥がぎゅうっと締めつけられる感覚を味わっていた。
しかし、せっかく彼が配慮してくれたのだ。その気持ちを無下にしてはいけないと、リリーシュはルルエと共にエリオットの元へと向かった。
「エリオット」
「リリーシュ」
「お疲れ様」
「ありがとう」
リリーシュに気付いたエリオットは、たちまち蕩ける様な笑みを見せる。いつものエリオットに戻ったと、リリーシュはほっと胸を撫で下ろした。
「さっきは、何だか元気がない様に見えたけれど」
「…あぁ。それは」
ーー君がルシフォール殿下の元へ嬉しそうに駆けていったのが、悲しかったんだ
エリオットはその言葉を飲み込み、頬を緩ませる。
「ただ悔しかっただけだよ。ルシフォール殿下があまりにも強くて」
「まぁ、そうだったの。エリオットも男の子なのね」
「ははっ、おもしろい言い方をするなぁリリーシュは」
「ふふっ」
リリーシュにとっては幼馴染との他愛ない会話。しかしそれを横目で見ているルシフォールにとっては、胸が焼けつきそうな程堪らない気分になる。
「おやおや。彼女は意外と罪作りなレディみたいだね」
楽しそうにそう口にしたユリシスの足を、ルシフォールは靴の踵で思いきり踏んづけた。