ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
どんなに綺麗事を並べようとも、エリオットを傷つける事に変わりはない。リリーシュは手の甲で涙を拭うと、エリオットの瞳を真っ直ぐに見つめた。
物心ついた時から宝石の様に綺麗だと思っていた、大好きなエメラルドの瞳。この綺麗な瞳が涙で濡れているのを見るのは、あのバースデーパーティーの日以来だと、リリーシュは思った。
「エリオット。貴方は私の、たった一人の幼馴染。エリオットとの思い出も、まるで昨日の事の様に思い出せる。私にとって、エリオットは家族なの。何があっても嫌いにはなれないし、この先も貴方が困っていたら助けたい。とても大切で、大好きよ。エリオット」
「リリーシュ…」
「ごめんなさい。貴方にとっては、こんな風に言われる事が許せないかもしれないけれど…」
寂しげにそう言って俯くリリーシュを、エリオットは今すぐに抱き締めたいと思う。だけど出来ない。自分はリリーシュを、家族とは思っていないのだから。
「ねぇリリーシュ。君は本当に、ルシフォール殿下の事が好きなのかい?彼と君は恋人同士なの?」
「恋人同士と言って良いのかどうか、良く分からないの。確かに気持ちは伝えあったけれど、その先の事は」
「それは相手があのルシフォール殿下だからでしょう?多少事実とは違っていたかもしれないけれど、彼の噂は酷いものだったじゃないか。借金と引き換えにここへやって来た君があの方を庇った所で、皆良い風には捉えないよ」
「…そうね、それも分かっているわ」
「あの方は、君に相応しくない」
「エリオット…」
「ははっ、ごめんね。男の嫉妬は醜いな」
涙の溜まった瞳で無理に笑う彼を見て、リリーシュの胸は苦しくなる。しんしんと降る粉雪が、二人の間をふわふわと舞っていた。
「あのね、エリオット。私は、ルシフォール様の事が好きなの。確かに最初は、噂通りの酷い人だと思ったわ。幸せになれないと分かりきっている生活を続けるのは辛かった。だけど今は、違うの。少しずつだけど私達は変わろうとしているわ」
「私達?リリーシュ、君もかい?」
「そう、私達。ルシフォール様も私も、今の自分を変えたいの。お互いを幸せにしたいと思っているから。私、諦めるのをやめたの」
「……」
あのリリーシュからそんな台詞を聞いて、エリオットは驚いた。そして同時に、悔しくて堪らなくなる。
彼女は、身分差を理由に僕との結婚を諦めた。幼馴染という立場であり、ルシフォールよりもずっとずっと傍に居たのに。
真実はどうあれ、男色家で女嫌いの暴力家という噂のあるルシフォールを信じ、彼の為に自分さえ変えようとしている。彼女は今家の為ではなく、自分自身でルシフォールの隣にいる事を選んだのだ。
「悔しいなぁ…」
絞り出す様なその声に、リリーシュはまた悲しくなる。しかし今、エリオットに手を伸ばしその体に触れる事は出来ない。
エリオットもルシフォールも、傷つけたくなどない。しかしそれが無理だという事も、彼女は分かっている。
「そっか。君と殿下は今、二人で頑張っている最中なんだね」
「エリオット」
「分かった。僕は君を諦める。ただの幼馴染として見れるように努力するよ。時間は随分掛かるだろうけど」
「あのね、エリオット」
「何?リリーシュ」
「私を好きだと言ってくれて、ありがとう」
笑顔を見せようとしたリリーシュだったが、実際にはギュッと唇に力が入ってしまい複雑な表情になる。
それを見て、エリオットはエメラルドの瞳を揺らして笑った。
物心ついた時から宝石の様に綺麗だと思っていた、大好きなエメラルドの瞳。この綺麗な瞳が涙で濡れているのを見るのは、あのバースデーパーティーの日以来だと、リリーシュは思った。
「エリオット。貴方は私の、たった一人の幼馴染。エリオットとの思い出も、まるで昨日の事の様に思い出せる。私にとって、エリオットは家族なの。何があっても嫌いにはなれないし、この先も貴方が困っていたら助けたい。とても大切で、大好きよ。エリオット」
「リリーシュ…」
「ごめんなさい。貴方にとっては、こんな風に言われる事が許せないかもしれないけれど…」
寂しげにそう言って俯くリリーシュを、エリオットは今すぐに抱き締めたいと思う。だけど出来ない。自分はリリーシュを、家族とは思っていないのだから。
「ねぇリリーシュ。君は本当に、ルシフォール殿下の事が好きなのかい?彼と君は恋人同士なの?」
「恋人同士と言って良いのかどうか、良く分からないの。確かに気持ちは伝えあったけれど、その先の事は」
「それは相手があのルシフォール殿下だからでしょう?多少事実とは違っていたかもしれないけれど、彼の噂は酷いものだったじゃないか。借金と引き換えにここへやって来た君があの方を庇った所で、皆良い風には捉えないよ」
「…そうね、それも分かっているわ」
「あの方は、君に相応しくない」
「エリオット…」
「ははっ、ごめんね。男の嫉妬は醜いな」
涙の溜まった瞳で無理に笑う彼を見て、リリーシュの胸は苦しくなる。しんしんと降る粉雪が、二人の間をふわふわと舞っていた。
「あのね、エリオット。私は、ルシフォール様の事が好きなの。確かに最初は、噂通りの酷い人だと思ったわ。幸せになれないと分かりきっている生活を続けるのは辛かった。だけど今は、違うの。少しずつだけど私達は変わろうとしているわ」
「私達?リリーシュ、君もかい?」
「そう、私達。ルシフォール様も私も、今の自分を変えたいの。お互いを幸せにしたいと思っているから。私、諦めるのをやめたの」
「……」
あのリリーシュからそんな台詞を聞いて、エリオットは驚いた。そして同時に、悔しくて堪らなくなる。
彼女は、身分差を理由に僕との結婚を諦めた。幼馴染という立場であり、ルシフォールよりもずっとずっと傍に居たのに。
真実はどうあれ、男色家で女嫌いの暴力家という噂のあるルシフォールを信じ、彼の為に自分さえ変えようとしている。彼女は今家の為ではなく、自分自身でルシフォールの隣にいる事を選んだのだ。
「悔しいなぁ…」
絞り出す様なその声に、リリーシュはまた悲しくなる。しかし今、エリオットに手を伸ばしその体に触れる事は出来ない。
エリオットもルシフォールも、傷つけたくなどない。しかしそれが無理だという事も、彼女は分かっている。
「そっか。君と殿下は今、二人で頑張っている最中なんだね」
「エリオット」
「分かった。僕は君を諦める。ただの幼馴染として見れるように努力するよ。時間は随分掛かるだろうけど」
「あのね、エリオット」
「何?リリーシュ」
「私を好きだと言ってくれて、ありがとう」
笑顔を見せようとしたリリーシュだったが、実際にはギュッと唇に力が入ってしまい複雑な表情になる。
それを見て、エリオットはエメラルドの瞳を揺らして笑った。