ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
ルシフォールの住まう塔に帰った二人は、こじんまりとしたバンケットルームでお茶を嗜む事にした。執事が運んできた紅茶とお菓子に、リリーシュはきらきらと瞳を輝かせる。
「スコーンに乗っているこのジャム、初めて目にしました。甘い花の蜜の様な香りがします」
くんくんと鼻を動かすリリーシュが可愛くて、ルシフォールは見惚れてしまう。
「…」
「ルシフォール様?」
「あ、あぁ。それは今回視察した地の特産物らしい。宿として世話になった貴族の奥方に持たされたんだ」
「可愛らしい桜色ですね」
「食べてみると良い」
「良いのですか?」
「もちろんだ」
「わぁい!頂きます」
子供の様に喜び、スコーンをパクリと口に運ぶ。パァッと辺りが明るくなったのかと思う程、彼女は嬉しそうに何度も頷いた。
最初の頃が嘘の様に、最近のリリーシュは様々な表情を見せてくれる。喜んだり、拗ねたり、時には甘えてみせたり。そんな時は決まって頬を紅く染め、恥ずかしそうにはにかんで見せるのだ。
あぁ、可愛い。可愛くて堪らない。たった数日会えなかっただけで、こんなにも恋しかった。彼女の一挙手一投足が愛おしく、いつまでも眺めていたいと思ってしまう。
「とても美味しいです、ルシフォール様!」
「あぁ、良かったな」
初めて食べるジャムについはしゃいでしまったが、ルシフォールがこちらを見つめる視線がとても柔らかな事に気がついた。
アイスブルーの瞳の中に笑顔の自分が写っている。それが何だか、とても特別な事の様に思える。
(とても幸せだわ)
ルシフォールと居ると、リリーシュは心がとても楽だった。どんな顔を見せても受け入れてくれる彼が、愛おしい。照れ隠しなのかたまに見せる天邪鬼な姿さえも、可愛らしいと思ってしまうのだ。
「ルシフォール様」
「ん?」
「私は貴方の事が、心から好きです」
「…っ」
急過ぎる告白に、ルシフォールは思わずフォークを床に落としてしまった。カチャンと音がして使用人が慌てて拾いに来るが、彼の目に映っているのはリリーシュだけだった。
「……」
普段のリリーシュならば、必ず頬を赤らめていた。潤んだ瞳で恥ずかしそうにこちらを見つめていた。しかし今、彼女は泣き出しそうな顔をしている。
「私を一度、アンテヴェルディ家に帰して頂きたいのです」
「…リリーシュ」
「大変な我儘を言っている事は分かっています。ですが私は」
「俺の事は気にするな」
ルシフォールは手を伸ばし、そっと彼女の指に触れる。気丈に見える表情とは裏腹に、それはかたかたと小刻みに震えていた。
「何があっても、俺はお前を信じる」
「ルシフォール様…」
「それから」
彼はその小さな手を、ギュッと包み込む様に握った。
「俺は決して、お前一人に背負わせはしない」
「…はい」
ゆっくりと目を閉じたその拍子に、リリーシュの瞳からポロリと涙が溢れ落ちる。
テーブルの上で、桜色のジャムが光の反射を受けきらきらと輝いていた。
「スコーンに乗っているこのジャム、初めて目にしました。甘い花の蜜の様な香りがします」
くんくんと鼻を動かすリリーシュが可愛くて、ルシフォールは見惚れてしまう。
「…」
「ルシフォール様?」
「あ、あぁ。それは今回視察した地の特産物らしい。宿として世話になった貴族の奥方に持たされたんだ」
「可愛らしい桜色ですね」
「食べてみると良い」
「良いのですか?」
「もちろんだ」
「わぁい!頂きます」
子供の様に喜び、スコーンをパクリと口に運ぶ。パァッと辺りが明るくなったのかと思う程、彼女は嬉しそうに何度も頷いた。
最初の頃が嘘の様に、最近のリリーシュは様々な表情を見せてくれる。喜んだり、拗ねたり、時には甘えてみせたり。そんな時は決まって頬を紅く染め、恥ずかしそうにはにかんで見せるのだ。
あぁ、可愛い。可愛くて堪らない。たった数日会えなかっただけで、こんなにも恋しかった。彼女の一挙手一投足が愛おしく、いつまでも眺めていたいと思ってしまう。
「とても美味しいです、ルシフォール様!」
「あぁ、良かったな」
初めて食べるジャムについはしゃいでしまったが、ルシフォールがこちらを見つめる視線がとても柔らかな事に気がついた。
アイスブルーの瞳の中に笑顔の自分が写っている。それが何だか、とても特別な事の様に思える。
(とても幸せだわ)
ルシフォールと居ると、リリーシュは心がとても楽だった。どんな顔を見せても受け入れてくれる彼が、愛おしい。照れ隠しなのかたまに見せる天邪鬼な姿さえも、可愛らしいと思ってしまうのだ。
「ルシフォール様」
「ん?」
「私は貴方の事が、心から好きです」
「…っ」
急過ぎる告白に、ルシフォールは思わずフォークを床に落としてしまった。カチャンと音がして使用人が慌てて拾いに来るが、彼の目に映っているのはリリーシュだけだった。
「……」
普段のリリーシュならば、必ず頬を赤らめていた。潤んだ瞳で恥ずかしそうにこちらを見つめていた。しかし今、彼女は泣き出しそうな顔をしている。
「私を一度、アンテヴェルディ家に帰して頂きたいのです」
「…リリーシュ」
「大変な我儘を言っている事は分かっています。ですが私は」
「俺の事は気にするな」
ルシフォールは手を伸ばし、そっと彼女の指に触れる。気丈に見える表情とは裏腹に、それはかたかたと小刻みに震えていた。
「何があっても、俺はお前を信じる」
「ルシフォール様…」
「それから」
彼はその小さな手を、ギュッと包み込む様に握った。
「俺は決して、お前一人に背負わせはしない」
「…はい」
ゆっくりと目を閉じたその拍子に、リリーシュの瞳からポロリと涙が溢れ落ちる。
テーブルの上で、桜色のジャムが光の反射を受けきらきらと輝いていた。