ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
第十八章「最愛の為、変わると誓う二人」
以前一度ルルエにアンテヴェルディ家の様子を見に帰ってもらった事があるのだが、その時は特に変わった所はなかったと彼女は言っていた。それが自分を安心させる為の言葉なのかは分からないが、取り敢えず悲惨な事にはなっていない様だ。
「リリーシュ!」
この家を出てから然程時間は経っていないが、随分久し振りのような気がする。サルーンに足を踏み入れると、すぐにラズラリーがリリーシュを出迎えた。
「お母様」
「あぁリリーシュ!本当にリリーシュなのね!」
ラズラリーは大きく両手を広げ、ギュッとリリーシュを抱き締める。何度も彼女の名前を呼ぶその声は微かに震えていて、リリーシュは目を瞑りその温もりに身を任せた。
「お元気でしたか?手紙はきちんと届いていましたか?」
「私達は大丈夫よ。リリーシュからの手紙もきちんと届いていたわ。ただ私達からは、返事を出せなかったの」
ラズラリーは色素の薄い茶色の瞳をきらきらと潤ませ、申し訳なさそうに眉をハの字に寄せる。
「それはどうして?」
「貴女を困らせてしまう様な気がして…ごめんなさいリリーシュ」
「いいえ、謝らないでお母様」
両親にそんな気遣いが出来るのだろうかと、リリーシュは僅かに疑問を抱く。しかし大方罪悪感を抱いたのだろうと、それ以上は追及しなかった。
「旦那様とカルスは少し出ているけれど、すぐに帰ってくるわ。馬車に乗って疲れたでしょう。さぁ、あちらでお茶にしましょ」
「ありがとうございます、お母様」
にこりと笑ったラズラリーは、やはりとても可愛らしいとリリーシュは思った。
「そうなの。それでねカルスったら、帰ってくるなり私達を怒鳴りつけるのよ?あの子のあんな顔を初めて見たわ!やっぱり、妹が可愛くて仕方ないのね」
「まぁ、そんな事が。私も早くお兄様にお会いしたいわ」
「あの子は私似だったけれど、最近は旦那様に良く似てきたみたい。グッと男らしくなっていたわ」
ラズラリーは紅茶のカップをカチャンと置くと、色々な出来事を楽しそうに話す。相変わらずのお喋り好きだと、リリーシュは微笑ましく思いながら聞いていた。
しかし何だか不思議だとも、彼女は思う。
「あの、お母様」
「なぁに?リリーシュ」
「私の話をしても宜しいですか?」
あのラズラリーが、宮殿でのあれこれに興味を示さない筈はない。てっきり質問攻めに遭うだろうと、身構えていたのに。
「リリーシュの話は、二人が帰ってからゆっくりと聞きたいわ」
「そう、ですか」
「あ、そういえばね!」
ラズラリーはリリーシュの話題をサッと流すと、再び自身の話をし始める。内心首を傾げながら、彼女は紅茶のカップに口を付けた。
(あぁ、やっぱりこの紅茶はとても美味しいわ)
唯一、城へ持っていかなかった事を後悔した代物。ランツ侯爵夫人のアフタヌーンティーに参加した際に惚れ、彼女から入手先を教えて貰った隣国の紅茶。リリーシュはこの味が恋しくて仕方なかったのだ。
何となくいつもと違う様な気もしたが、ラズラリーが元気そうで彼女はホッと胸を撫で下ろした。
「リリーシュ!」
この家を出てから然程時間は経っていないが、随分久し振りのような気がする。サルーンに足を踏み入れると、すぐにラズラリーがリリーシュを出迎えた。
「お母様」
「あぁリリーシュ!本当にリリーシュなのね!」
ラズラリーは大きく両手を広げ、ギュッとリリーシュを抱き締める。何度も彼女の名前を呼ぶその声は微かに震えていて、リリーシュは目を瞑りその温もりに身を任せた。
「お元気でしたか?手紙はきちんと届いていましたか?」
「私達は大丈夫よ。リリーシュからの手紙もきちんと届いていたわ。ただ私達からは、返事を出せなかったの」
ラズラリーは色素の薄い茶色の瞳をきらきらと潤ませ、申し訳なさそうに眉をハの字に寄せる。
「それはどうして?」
「貴女を困らせてしまう様な気がして…ごめんなさいリリーシュ」
「いいえ、謝らないでお母様」
両親にそんな気遣いが出来るのだろうかと、リリーシュは僅かに疑問を抱く。しかし大方罪悪感を抱いたのだろうと、それ以上は追及しなかった。
「旦那様とカルスは少し出ているけれど、すぐに帰ってくるわ。馬車に乗って疲れたでしょう。さぁ、あちらでお茶にしましょ」
「ありがとうございます、お母様」
にこりと笑ったラズラリーは、やはりとても可愛らしいとリリーシュは思った。
「そうなの。それでねカルスったら、帰ってくるなり私達を怒鳴りつけるのよ?あの子のあんな顔を初めて見たわ!やっぱり、妹が可愛くて仕方ないのね」
「まぁ、そんな事が。私も早くお兄様にお会いしたいわ」
「あの子は私似だったけれど、最近は旦那様に良く似てきたみたい。グッと男らしくなっていたわ」
ラズラリーは紅茶のカップをカチャンと置くと、色々な出来事を楽しそうに話す。相変わらずのお喋り好きだと、リリーシュは微笑ましく思いながら聞いていた。
しかし何だか不思議だとも、彼女は思う。
「あの、お母様」
「なぁに?リリーシュ」
「私の話をしても宜しいですか?」
あのラズラリーが、宮殿でのあれこれに興味を示さない筈はない。てっきり質問攻めに遭うだろうと、身構えていたのに。
「リリーシュの話は、二人が帰ってからゆっくりと聞きたいわ」
「そう、ですか」
「あ、そういえばね!」
ラズラリーはリリーシュの話題をサッと流すと、再び自身の話をし始める。内心首を傾げながら、彼女は紅茶のカップに口を付けた。
(あぁ、やっぱりこの紅茶はとても美味しいわ)
唯一、城へ持っていかなかった事を後悔した代物。ランツ侯爵夫人のアフタヌーンティーに参加した際に惚れ、彼女から入手先を教えて貰った隣国の紅茶。リリーシュはこの味が恋しくて仕方なかったのだ。
何となくいつもと違う様な気もしたが、ラズラリーが元気そうで彼女はホッと胸を撫で下ろした。