ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
「ごめんなさい、リリーシュ。まさかこんなことになるなんて、思ってもいなかったの」
(いいえお母様、私はこうなると思っていました)
リリーシュは喉まで出かかったその言葉を飲み込み、すっかり丸まってしまったラズラリーの背中を優しく撫でた。
結論から言えば、アンテヴェルディ公爵家は騙された。そして、一瞬で首が回らなくなる程の負債を抱えることとなってしまったのだ。
騙されたという確たる証拠は、どこにもない。しかしラズラリーからあの話を聞き、こうなってしまうまでに一ヶ月も掛かっていないことから察するに、彼女が話を持ち掛けられたという豪商はこうなることが分かっていたのだろう。そうでなければ、事態が悪化するのがあまりにも早過ぎるのだ。
それからもう一つ、リリーシュが騙されたと考える理由がある。それは、このタイミングでやってきたリリーシュへの婚約話だった。
その相手は、モンテベルダ伯爵家。以前、ランツ侯爵夫人のアフタヌーンティーに招かれた時、私に声を掛けてきたご令嬢の家だったのだ。
彼女の家は、金貸しでの仕上がったまだ歴史の浅い貴族。今までは目が合ったことすらなかったのに、何故あの日に限っては声を掛けてきたのか。リリーシュの心の中で、気持ち良い程にぱちんぱちんとパズルのピースがはまっていった。
モンテベルダ伯爵令嬢の隣に居たのは、グロスター伯爵令嬢。彼女の家は、手広い商取引で栄えていると有名だ。口の上手い豪商一人用意することなど、容易いことだろう。
心の中で暫くリリーシュは動揺していたし、彼女達が私と親しくしたくて声を掛けてきた訳ではないことが明白になり、少なからずショックも受けている。
しかし良いように考えれば、理由が分かってスッキリもしていた。いや、只の憶測でしかないのだけれど、十中八九リリーシュの考えは当たっているだろう。
モンテベルダ伯爵令嬢はあの時、しきりに私に確認していた。本当にエリオットとは婚約関係にないのか、と。それもそうだ、もし私達がそういう仲だとしたら、こんなことになってウィンシス家が黙っていない。
派手で浪費家で、爵位と恵まれた領地しか誇れるものがないアンテヴェルディ家を相手にするのとは、訳が違ってくるからだ。
大方、モンテベルダ伯爵家はうちの爵位目当て。その為に、母に近付き騙したのだ。アンテヴェルディ家の財政が傾いていなければ、モンテベルダ家から婚姻を申し込むなど普通は考えられないのだから。
娘のアンナは、明らかにエリオット目当てだった。自分の兄に私を嫁がせて監視したいとか、私にウィンシス家との仲を取り持つよう命じる気だとか、彼女の思惑はその辺りだろう。
それに協力したのが、グロスター伯爵家。輸出入による取引で成り立っている彼らにとっては、力のある金貸しに協力しておいて損はないだろう。
とまぁ、筋書きはこんなところか。リリーシュは落ち着いた表情で、再び母親に目を向けた。まるで被害者であるかのように、目を真っ赤に腫らしてシクシクと泣いている彼女を見ながら、リリーシュは溜息を吐きたくなるのを必死に堪えた。
実際、ラズラリーは被害者であるといえばそうなのだが、リリーシュには自業自得だとしか思えなかった。
(さぁ、これからどうしましょう)
リリーシュは、ふと窓に目を向ける。薄暗い空からちらちらと粉雪が舞い始めるのが見えて、思わず見惚れてしまった。
そうだ。結局のところは、そうなのだ。
(きっと、なるようになるわ)
(いいえお母様、私はこうなると思っていました)
リリーシュは喉まで出かかったその言葉を飲み込み、すっかり丸まってしまったラズラリーの背中を優しく撫でた。
結論から言えば、アンテヴェルディ公爵家は騙された。そして、一瞬で首が回らなくなる程の負債を抱えることとなってしまったのだ。
騙されたという確たる証拠は、どこにもない。しかしラズラリーからあの話を聞き、こうなってしまうまでに一ヶ月も掛かっていないことから察するに、彼女が話を持ち掛けられたという豪商はこうなることが分かっていたのだろう。そうでなければ、事態が悪化するのがあまりにも早過ぎるのだ。
それからもう一つ、リリーシュが騙されたと考える理由がある。それは、このタイミングでやってきたリリーシュへの婚約話だった。
その相手は、モンテベルダ伯爵家。以前、ランツ侯爵夫人のアフタヌーンティーに招かれた時、私に声を掛けてきたご令嬢の家だったのだ。
彼女の家は、金貸しでの仕上がったまだ歴史の浅い貴族。今までは目が合ったことすらなかったのに、何故あの日に限っては声を掛けてきたのか。リリーシュの心の中で、気持ち良い程にぱちんぱちんとパズルのピースがはまっていった。
モンテベルダ伯爵令嬢の隣に居たのは、グロスター伯爵令嬢。彼女の家は、手広い商取引で栄えていると有名だ。口の上手い豪商一人用意することなど、容易いことだろう。
心の中で暫くリリーシュは動揺していたし、彼女達が私と親しくしたくて声を掛けてきた訳ではないことが明白になり、少なからずショックも受けている。
しかし良いように考えれば、理由が分かってスッキリもしていた。いや、只の憶測でしかないのだけれど、十中八九リリーシュの考えは当たっているだろう。
モンテベルダ伯爵令嬢はあの時、しきりに私に確認していた。本当にエリオットとは婚約関係にないのか、と。それもそうだ、もし私達がそういう仲だとしたら、こんなことになってウィンシス家が黙っていない。
派手で浪費家で、爵位と恵まれた領地しか誇れるものがないアンテヴェルディ家を相手にするのとは、訳が違ってくるからだ。
大方、モンテベルダ伯爵家はうちの爵位目当て。その為に、母に近付き騙したのだ。アンテヴェルディ家の財政が傾いていなければ、モンテベルダ家から婚姻を申し込むなど普通は考えられないのだから。
娘のアンナは、明らかにエリオット目当てだった。自分の兄に私を嫁がせて監視したいとか、私にウィンシス家との仲を取り持つよう命じる気だとか、彼女の思惑はその辺りだろう。
それに協力したのが、グロスター伯爵家。輸出入による取引で成り立っている彼らにとっては、力のある金貸しに協力しておいて損はないだろう。
とまぁ、筋書きはこんなところか。リリーシュは落ち着いた表情で、再び母親に目を向けた。まるで被害者であるかのように、目を真っ赤に腫らしてシクシクと泣いている彼女を見ながら、リリーシュは溜息を吐きたくなるのを必死に堪えた。
実際、ラズラリーは被害者であるといえばそうなのだが、リリーシュには自業自得だとしか思えなかった。
(さぁ、これからどうしましょう)
リリーシュは、ふと窓に目を向ける。薄暗い空からちらちらと粉雪が舞い始めるのが見えて、思わず見惚れてしまった。
そうだ。結局のところは、そうなのだ。
(きっと、なるようになるわ)